鬼ゆり 

  おにゆり  鬼百合  Tiger lily (Lilium lancifolium)  ユリ科ユリ属

オニユリは下の写真にあるとおり、花に濃い色の斑点があることから「Tiger lily」の英名を持ちます。
花が反り返って咲く様子が、まるで鬼の顔のように見えなくもありません。しかしこの模様、本来は豹の模様でしょう。
原産地は中国で、古くヨーロッパや日本に渡来したと考えられます。球根は鱗片状。繁殖は球根と葉腋に付くむかご(珠芽)で行います。

モンゴメリは「ゴージャスな」と表現し、村岡花子は「茂み」と訳したほど生育が早く、むかごから2年目から花を見ることができます。花期はほかのユリに比較してやや遅く、花の盛りを迎えるのは、那須では七月末から旧盆のころ。ちなみに写真のオニユリは、会津の山奥の村で頂いたむかごを蒔いて3年目の花。(私の庭)

良く似た花に、コオニユリ(小鬼百合)があります。
北海道から九州にかけて分布する日本自生のユリで、オニユリに比べやや花が小さく、むかご(珠芽)ができない代わりに、刮ハ(熟すると裂け、種子が散布される果実)が付き、種子でも増やすことができます。

どちらも救荒植物。球根は時に猿の餌になることもあり、栽培家を悩ませる問題なのです。
というよりも「茶わん蒸し」に入っているユリ根がそうだ、と聞くと分かりやすいでしょうか。
売られている球根を、試しに土中に植えこむと、次の夏には見事な花を楽しむことが出来るでしょう。

  外の庭では黒ずんだ古い樅の向こうから、なごやかな夕日がいっぱいに庭の西側にあたり、アンとダイアナは、はなやかな鬼ゆりの茂み(gorgeous tiger lilies)をはさんで、おたがいに恥ずかしそうにながめあっていた。 
                    『赤毛のアン』  第12章  おごそかな誓い

 (
Outside in the garden, which was full of mellow sunset light streaming through the dark old firs to the west of it, stood Anne and Diana, gazing bashfully at each other over a clump of gorgeous tiger lilies. )
 

       

 属名の Lilium はギリシャ語の「leirion(白)」から。マドンナリリーの白い花が念頭にあったのでしょうか。
いずれご紹介する  Daylily  との混同が見られることもあるようです。

『アンの夢の家』の庭に咲く Daylily は、ユリ科ワスレグサ科のカンゾウのこと。日本古典にはこのワスレグサを身に着け、憂事を忘れる、という歌が多いのです。それはまた後ほど。
百合の花粉のしつこいことは、どなたもご存じですね。
オニユリの高さと、二人の少女の背の高さは丁度同じくらい。緊張してぎこちなくなっている二人の服に、花粉が付かなかったのかしら---

 
実は疑問に思うことが一つ。グリン・ゲイブルスに引き取られたアン。
バリー家の同年齢のダイアナに引きあわされる夕暮れ、マリラに連れられ緊張の面持ちで出かけていくアン。
そこには、シリーズ中屈指の美しさを誇る、夫人が丹精した庭が広がります。

  ばら色のブリーディング・ハーツ(rosy bleeding-hearts)、真紅の素晴らしく大輪の牡丹、白くかぐわしい水仙や、棘のある、やさしいスコッチ・ローズ、ピンクや青や白のおだまき草や、よもぎや、リボン草や、はっかの茂み、きゃしゃな、白い羽根のような葉茎を見せているクローバーの花床、つんとすましかえったじゃこう草の上には、燃えるような緋色の花が真っ赤な槍をふるっている、といったぐあいで--- 
               『赤毛のアン』第12章 おごそかな誓い

ところが,、このシーンに出てくるバリー家の庭の花の咲く頃と、このオニユリの咲く季節には時期的な差があるのです。
モンゴメリは、懐かしい庭にはこのような花が咲いていて欲しいと言う、庭全体図というのを心に秘めていたのかもしれません。またもや「作家的真実」----正確を旨とする植物愛好家にとっては----- 悩ましいところ。

あるいは、鬼百合は茂っているだけで、まだ花を咲かせていなかったとも考えられましょうか。「はなやかな」との表現からこれも無いようです。
それともオニユリに比べ、花期がひと月早いコオニユリだったのかもしれません。しかし、当時島にこのコオニユリが存在したか、との大きな疑問が残ります が。