もみ    

 モミ Fir → バルサムモミ Balsam fir (Abies balsamea) マツ科モミ属 

モミはマツ科モミ属の常緑高木。
場所により、高さが50メートルにも達することもあります。
島の自生種は、アンにとっても幸いなことに、モミのなかでも香りの高いバルサム・ファー(Balsam fir)。
高生の樹形が円錐形で美しく、現代のカナダではクリスマス・ツリーとして用いられます。

バルサムとは、樹木が分泌する樹脂油のことで、バルサムを分泌する樹木をバルサム樹と呼びます。
バルサム樹とは特定の種ではなく、カナダツガも同様の樹脂を分泌します。 カナダツガ=バルサムカナダツガですね。枯葉をクッションに詰めると、実際的なダイアナは言います。
おそらく爽やかないい香りで、眠りに誘ってくれることでしょう。
 

  アンはその小径のはずれまでぶらぶら歩いて行き、小川や橋、樅の茂み(fir coppice)や野生の桜のアーチ、しだがおい茂っているかたすみや、ななかまどの枝がさしかわす細道などを楽しんだ。 
 
              『赤毛のアン』第9章  レイチェル・リンド夫人あきれかえる

(She had discovered that a lane opened out below the apple orchard and ran up through a belt of woodland; and she had explored it to its furthest end in all its delicious vagaries of brook and bridge, fir coppice and wild cherry arch, corners thick with fern, and branching byways of maple and mountain ash. )

 この橋をわたりおわると木の茂った丘になっていた。ここは亭々とした樅(fir)やえぞ松がすきまなくたちならんでいるために、いつもたそがれのようにうす暗かった。そのあたりに咲いていた花は、やさしくしおらしい無数の釣鐘草と去年の花の精にも似た青白いスターフラワーだけだった。木々にかけわたしたくもの巣が銀の糸のように光り、樅の枝と(fir boughs)花々が親しげにささやきかわしているかのように思われた。
 
               『 赤毛のアン』 第9章  レイチェル・リンド夫人あきれかえる

 That bridge led Anne's dancing feet up over a wooded hill beyond, where perpetual twilight reigned under the straight, thick-growing firs and spruces; the only flowers there were myriads of delicate "June bells," those shyest and sweetest of woodland blooms, and a few pale, aerial starflowers, like the spirits of last year's blossoms. Gossamers glimmered like threads of silver among the trees and the fir boughs and tassels seemed to utter friendly speech. )

 ある6月の夕方のことだった。・・・・果樹園にはふたたびピンクの花が咲き、「輝く湖水」の上のほうの沼ではかえるが低い声で楽しそうに歌っていた。空気はクローバーの原と、樅の林の香り(balsamic fir woods)でふくいくとしていた。 
 (この場合のクローバーは、香りのある
Sweet clover。)
              『赤毛のアン』 第20章 行きすぎた想像力

(One June evening, when the orchards were pink blossomed again, when the frogs were singing silverly sweet in the marshes about the head of the Lake of Shining Waters, and the air was full of the savor of clover fields and balsamic fir woods,  )

 アンは興奮と嬉しさで夢中だった。火曜日の晩、たそがれのなかでダイアナにすっかり話してきかせた。二人は「妖精の泉」のほとりの大きな赤石にすわって、樅の樹脂(fir balsam)に浸した小枝で水のうえに虹をつくった。
              『赤毛のアン』 第21章 香料ちがい                                             

(Anne was wild with excitement and delight. She talked it all over with Diana Tuesday night in the twilight, as they sat on the big red stones by the Dryad's Bubble and made rainbows in the water with little twigs dipped in fir balsam. )

「空気のなかに魔法がこもっているわ。ごらんなさいな。谷間の畑のくぼみが紫色 に見えるじゃないの、ダイアナ。そしてまあ、樅の枯葉(dying fir)の匂いをかいでごらんなさいな! 
 
             『アンの青春』 第6章  人さまざま

( "The air has magic in it. Look at the purple in the cup of the harvest valley, Diana. And oh, do smell the dying fir! It's coming up from that little sunny hollow where Mr. Eben Wright has been cutting fence poles. Bliss is it on such a day to be alive; but to smell dying fir is very heaven. )
 


 わが家のモミ (右端)

 


  近くの道の駅のモミ
 

マツ科の樹木にはよくあることですが、樹脂の塊りができやすく、(エゾマツのガム参照。香りがモミと同じかどうか不明)、アンとダイアナが、泉で樹脂を付けた小枝で虹を作って遊んでいるシーンが印象的です。 (『赤毛のアン』第21章)

もっともこの泉での遊びでアンはすっかり鼻風邪を引いてしまい、あの「ケーキ事件」を引き起こしてしまったのでしたね。子供時代にはよくあること、と言えばそれまでですが、間の悪い出来事です。
いったいに、料理もお菓子づくりも、いつもより、上手に出来て欲しい時に限って、失敗するのはなぜでしょうか?
なんらかの定理が働いているとしか思えません。

『可愛いエミリー』には、こんなシーンもありました。

  彼女は樅の木の強い香りを吸い込んだ。見上げると大枝にくもの巣がきらきら光っていた。あたりのいたる所で、妖精の光と影が戯れていた。・・・」  第7章  

 (She breathed in the tang of fir-balsam and saw the shimmer of gossamers high up in the boughs, and everywhere the frolic of elfin lights and shadows. )

そして、『エミリーが求めるもの』にも、「・・・春のスミレの匂う谷 --- 夏の花 --- 秋に歌うモミの木 --- 冬の夜の銀河の淡いほのお --- 静かな新月の四月の空 ―-- ロンバルディ杉の妖精のような美しさ --- 十月のたそがれに淋しく落ち散る木の葉 --- 果樹園の月光」   第25章
 

どうやら、樅の香りは、人の心の底をくすぐる香りのようです。
 「まっすぐの国」の並んだ木々も、樅の木でした。