ジューンベル

  ジューンベル Junebell → Twinflower 
                                    Linnaea borealis スイカズラ科リンネソウ属

1本の花茎の上に2花を付けることから英名はTwinflower。 和名はリンネソウ、メオトバナ。背が低く、見たところ草本のようにも見えますが常緑の背の低い木で、スプルースなどの針葉樹の下に群生し、茎は地面を這い、細かく枝分かれして繁殖します。
花色は個体差があり、写真(カナダ・マリーン湖畔)の花は淡いピンク。
夜間は特に香るようです。(残念ながら、夜は熊が出るので外出できません。)

 
Linnaeaという学名は、スウェーデンの植物学者で、分類学の基礎を築いたリンネ(Carolus Linnaeus)がこの植物を愛し、自分の名前を付けたことから。
1属1種の植物で、北アメリカ、南ヨーロッパ亜高山帯の針葉樹林の下に生育し、日本では北海道と本州の北部の針葉樹林で見られる!らしいのです。(ああ、いつか!)
 

  「・・・それで言ってやったのよ。『ああ、かわいそうにね。もし、お前たちが大きな大きな森にいて 、まわりにはぐるっとほかの木が立っていて、お前たちの根もとには、小さな苔や花(Junebells)がはえていたり、 枝では小鳥がうたっていたりしたら、お前たちも大きくなれるのにね・・・ 」
                 『赤毛のアン』 第2章  マシュゥ・クスバートの驚き

 I used to say to them, `Oh, you poor little things! If you were out in a great big woods with other trees all around you and little mosses and Junebells growing over your roots and a brook not far away and birds singing in you branches, you could grow, couldn't you?
 

アンは馬車に乗りながら孤児院の様子をマシューに語ります。
「小さな木が狭い場所に生えていて、大きな木になれそうにもない。その悲しさは私と同じよ」。
小さいころから樹木やJunebellsに心惹かれていたのです。
 
  そのあたりに咲いていた花は、やさしくしおらしい無数の釣鐘草(June bell )と去年の花の精にも似た青白いスターフラワーだけだった。 
               『赤毛のアン』 第9章  レイチェル・リンド夫人あきれかえる

 --- the only flowers there were myriads of delicate "June bells," those shyest and sweetest of woodland blooms, and a few pale, aerial starflowers, like the spirits of last year's blossoms.
 


グリーン・ゲイブルスに来て二週間。アンは島の美しさを心ゆくまで味わいます。村岡訳に「歓喜に燃えた探検」とあるように、自然の豊かさにひれ伏し、心を奪われる様子がよく表現してありますね。
ささやかなもの、単純な美しさを持つもの。これこそが私たちの人生で大きな意味を持つ。小さいものを記憶の奥に留め、それを思い起こすのは、道が険しくなった時や困難に立ち向かう時。その勇気を与えてくれるのは、小さなものたち。
モードは、この花(Linnaea boreali)が一番好きと言っています(1914年4月15日の日記)。 
「野の花ならプリンス・エドワード島のスプルースの森に咲くジューンベル---linnea borealisが一番好き」と。人生を重ねると、たとえば林に咲く小さい花のようなものが、いかに大きな力を持ち、心を支えてくれるものになるのか

ジューンベルは、モンゴメリが名付けた名前。
大好きなものに自分だけがわかる名前を付ける・・・これがモンゴメリ流。
6月の林に釣鐘の形をした花が咲く、作者はこれをジューンベルと名付け、村岡は釣鐘草と訳出しました。

* 『果樹園のセレナーデ』のなかで、主人公エリックは、恋しく思うキルメニイにこう言っています。
「ありがとう。このジューン・リリーは春が持ってきてくれる中で、一番美しい花です。この本当の名前が白水仙だということをご存じですか」と。


これは水仙をJune liliyと名付けたのと同じ発想です。水仙については別ページを参照してください。

   
              カナダ ロッキーの山の中 マリーン湖畔
 

上の写真の、地を這う葉を見てください。スイカズラ科 だけあって、葉がスイカズラのそれにそっくり。
地下茎による繁殖方法を採り、地味ながらも深く静かに波を切る小舟のような花との印象を受けました
ですから、こんな使いかたもあるのです、驚きました。

  彼女は薄緑のセーターを着ており、髪の毛をリンネソウの細いつるで縛っていた。
                                                 『青い城』 谷口由美子訳 角川書店

 (
She wore a pale green sweater and had bound a fillet of linnaea vine about her hair. The feathery fountain of trailing spruce overflower her arms and fell around her. .)

 
写真の手前、右や左のやや大きな葉は、ゴゼンタチバナ( Bunchberry)の葉。
ダイアナが「かばの道」と名付けた小径にぎっしりおい茂っているという描写がありました(T-15章)。
このリンネソウは、生育環境が似ているのか、ゴゼンタチバナと仲良しのようで、いつも一緒に咲いているのが見られます。
 

    

        ○  行き合ひし かの夏の日のかがやきにリンネソウもてこの島包め  (Ka)