すいかずら 

  すいかずら  Honeysuckle   ( Lonicera スイカズラ科スイカズラ属)

すいかずらは日本名を忍冬。冬に半分葉を落とす、半常緑のツル性植物。秋に黒い実がなります。
名前のHoneysuckleは、房のような花を次々にさかせ、蜜を蓄えることから。甘い香りには、精神安定作用があると言われ、ポプリの素材や、エッセンシャル・オイルとしても利用され 、園芸種は「ロニセラ」の名前で販売されています。

手違いで孤児院から女の子が送られてきた事実を質すため、マリラは海沿いに馬車を走らせるのでした。
アンの身の上を聞き出そうとするマリラ。それに答えてアンは、生い立ちを想像を交えて話し続けるのです。
アンがボーリング・グローブの生家を思い描くシーンに、
 

  客間の窓にはすいかずらがからんでるし、前の庭にはライラックが植わっていて、門を入ったところにはすずらんが咲いていたに違いないと思うの。(lilies of the valley
                   『赤毛のアン』第5章  アンの身の上 村岡花子訳

 (
I think it must have had honeysuckle over the parlor window and lilacs in the front yard and lilies of the valley just inside the gate. )
すいかずら、ライラック、すずらん。 この花々はアンの記憶を飾る花。なかでもすいかずらは、その絡む動作から、アンの何かに、どこかに属したい、自分が不安定な身分ではなく家族の一員でありたい・・・・その思いを具現するものだとの印象を受けるのです。
 

   イギリス・コッツウォルズのハニーストーンに
 ハニーサックルがからむ。

     日本のスイカズラ 忍冬 
 良い香り  蜜をチュッと吸うと少し甘い。
”Anne gathered some sprays of pale-yellow honeysuckle and put them in her hair. She liked the delicious hint of fragrance, as some aerial benediction, above her every time she moved. ”

 (アンは淡い黄色のすいかずらの小枝を何本か束ねて髪に挿した。動くたびに、あたかも祝福が降り注ぐように、甘やかな香りが漂うのが好きだった )    『赤毛のアン』 第37章 死の訪れ               (拙訳) 


心のささえとなっていてアンが大学に進み、自分は一人取り残されるのかと悲観するマリラを力づけるシーンの背景に、甘い香りのスイカズラを選んだモンゴメリのセンスの素晴らしさ! 
ところが、なぜか。村岡訳にはこの部分が抜け落ちています。不思議なのです。
何らかの意思が働いたていると考えてみました。
......家族の大きな部分を閉めたマシュゥの死を「からむ」スイカズラを取り除くことによって表現したかったのか....心のうちをさらけ出すことのなかったマリラ。整合性を考え、この部分をを訳すことを逡巡し たのか....

参考までに:村岡花子訳改訂版にはこうあります。
---アンは、淡い黄色の忍冬の小枝を何本か束ねて髪に挿した。体を動かすたびに漂うほの甘い香りは、天から降り注ぐ祝福のようで心地が良かった。 

この部分の「pale-yellow honeysuckle 」は日本原産のスイカズラ(忍冬 ・Japanese Honeysuckle (Lonicera Japonica)かもしれません。名前のとおり、日本原産ですが、北米では園芸種として良く知られています。
白く香りの高い花を付け、咲き進むにつれて次第に黄色く変化し、花姿に似合わず生育が盛んで、挿し芽で簡単に活着します。 ただ、アンの時代にカナダの東の島で繁殖していたか、疑問も残ります。
ほかに考えられるのは画像左の薄黄色いスイカズラ。下に書いているツキヌキニンドウ(突抜忍冬)も候補に上がります。この場面で作者にはどのスイカズラが浮かんだのか興味 を惹かれます。どれも甘い香りが漂います。

幸福な忍冬もあるのです。
誤解や意地の張り合いから、長年別れ別れになっていた、若い時の恋人と結婚する喜びに浸るミス・ラベンダー。蔓が長く伸び、互いに絡み合うことから男女の愛の花とされ、花言葉は「愛の絆」、「献身的な愛」。

  「8月の最後の水曜日なのよ。庭の忍冬の四つ目垣(honeysuckle trellis )の下で式を挙げるの。二十五年前、アーヴィングさんが結婚の申し込みをした場所なんですとさ、マリラ。
                 『アンの青春』 第29章  詩と散文  村岡花子訳

( "The last Wednesday in August. They are to be married in the garden under the honeysuckle trellis. . .the very spot where Mr. Irving proposed to her twenty-five years ago.


スイカズラにはほかにも花が細い筒状で、花先が裂けてラッパ状になる代表的な品種があり、「Trumpet Honeysuckle 」と呼ばれます。(Trumpet honeysuckle(Lonicera sempervirens))
原産地は北米。野生化したものが北米東部のあちこちで見られ、やはりツル性で日本原産のスイカズラと違い、常緑。熟した実は赤。写真のように花の色は外側が赤、内側が黄色味を帯びたピンク。
和名をツキヌキニンドウ(突抜忍冬)とも言います。葉が対生し、一番花に近い頂上の葉は連続していて、その葉の間から花茎が突き抜けているように見えることから。

下の写真はその花。わが家のトレリスに絡み付き初夏を謳歌中。
暑さ寒さに強く、生育旺盛、まことに強靭。  実は、あまり生長しないようにコントロールするのが大変。
 

    庭のトレリスに咲き上るスイカズラ (ツキヌキニンドウ・突抜忍冬)

         ○ 蜜色のひかりをまとふ夕まぐれたましひ括る黄のすいかずら   (Ka)