ライラック 

  ライラック Lilac  (Syringa vulgaris モクセイ科ハシドイ属)  
               
 フランス語ではリラ 和名はムラサキハシドイ

     
                
写真は友人の庭の花   私の庭の木はまだ幼い。
                                                  
落葉低木。枝先に円錐花序(房)になって咲き、麗しい香 りがあります。花色は普通紫色で、園芸種として改良されたものに白、濃い紫、ピンクなどあり、花の季節は初夏。
緯度が高いので、春の遅い島では、桜やりんごの花と一緒に咲いているようです。和名はムラサキハシドイ。
暑さに弱いことから、関東以西では栽培しにくく、日本では寒い土地に良く見られます。
テッポウムシが樹幹に入り込み枯らしてしまうことがしばしば起きるので、ご注意を。
実は上の画像の木ですが、撮影の後3年で枯れてしまいました。よく起きることです。
                             

  家の両側は、一方はりんご、一方は桜の大きな果樹園になっており、これまた花ざかりだった。花の下の草のなかにはたんぽぽが一面に咲いていた。紫色の花をつけたライラック( lilac trees)のむせるような甘い匂いが朝風にのって、下の庭から窓べにただよってきた。 
                                     『赤毛のアン』 第4章 「緑の切妻屋根」の朝  村岡花子訳

 (A huge cherry-tree grew outside, so close that its boughs tapped against the house, and it was so thick-set with blossoms that hardly a leaf was to be seen. On both sides of the house was a big orchard, one of apple-trees and one of cherry-trees, also showered over with blossoms; and their grass was all sprinkled with dandelions. In the garden below were lilac-trees purple with flowers, and their dizzily sweet fragrance drifted up to the window on the morning wind. )

手違いが起きました。自分は求められていない存在だとの厳しい現実を突きつけられ、昨夜アンは悲しみにくれて眠りについたのです。
ところが。朝。島の6月の朝。
こんな朝にはだれも不機嫌ではいられません。
 

---- まあ、かりにいられるとしておこう。ここには想像の余地があるもの
                      (There was scope for imagination here. ) 


現実を,言葉と想像力で癒すことの出来るアン。 ブラウニングの詩が口からすべり落ちたことでしょう。

○ 春の朝(あした)」 上田敏 訳 (訳詩集『海潮音』明治38年10月刊所収)
     Pippa's Song (Pippa passes, 1841)  by Robert Browning


時は春
日は朝(あした)
朝(あした)は七時
片岡に露みちて
揚雲雀(あげひばり)なのりいで
蝸牛(かたつむり)枝に這ひ
神、そらに知ろしめす
すべて世は事も無し

The year's at the spring
And day's at the morn;
Morning's at seven;
The hill-side's dew-pearled;
The lark's on the wing;
The snail's on the thorn;
God's in his heaven -
All's right with the world!    

この詩が最終章につながります。
進学を諦めマシュゥの思い出があふれるグリン・ゲイブルスを守る決心したアン。
真剣な仕事と希望と友情を手にしたアンは、神の祝福に与かります。最終章のそれも最後のフレーズは、

「神は天にあり、世はすべてよし」とアンはそっとささやいた。
 
 
客間の窓にはすいかずら( honeysuckle )がからんでるし、前の庭にはライラック(lilacs)が植わっていて、門を入ったところにはすずらん(lilies of the valley)が咲いていたに違いないと思うの
             
『赤毛のアン』 第5章  アンの身の上  村岡花子訳

 
((I think it must have had honeysuckle over the parlor window and lilacs in the front yard and lilies of the valley just inside the gate. )

 『赤毛のアン』には、ライラックの花の描写は上の二つの場面だけ。
しかし、その存在感は、他のどの花よりも大きいような気がします。
グリーンゲイブルスの庭に咲き誇り、甘い香りを漂わせているし、ボーリングブロークの生家の庭にもこのライラックが咲いていたに違いない、と思わせるなにものかがあるようです。
それは両親への思いでしょうか。

村岡訳では、このアンの想像上の生家に咲く花を「すいかずら」、「ライラック」、「すずらん」と記述しています。
ライラックだけがカタカナ。バルカン半島を原産とするこのライラックには、どこやら異国趣味が漂いますが、この雰囲気をカタカナで表現した村岡訳に感心するばかり。

このライラック、おそらくマリラのお気に入りの花だったことでしょう。
母親の形見の紫水晶とこの花の色がぴったり重なりますから。花言葉は「初恋の味」。