しだ  

   しだ     Fern   ワラビ ゼンマイ クサソテツ などのすべて

シダ植物(羊歯植物)は、維管束植物で種子繁殖をしない植物の総称。胞子によって増える植物。 地面から直接立ち上る茎から羽状複葉の葉を出します。

           ワラビ
  Bracken fern(Pteridium aquilinum) 
     コバノイシカグマ科ワラビ属

カナダ ロッキーの山の中で。
すこし下った小川のそばに、ライスリリー(さゆり)が咲いていました。 

 
 ゼンマイ  和名はヤマドリゼンマイ
  Cinnamon fern(Osmunda cinnamonea) 
        ゼンマイ科ゼンマイ属   

  イギリス、ワーズワースの邸宅を下に見て。
ヤマドリゼンマイ。   左隅中央にシモツケソウが咲いています。             

 二人が家への小径にかかるまでアンはなにも言わなかった。どこから吹いてくるとも知れぬそよ風が、露にぬれた若いしだ(ferns)の強い香りをのせて、ふたりを迎えた。
             『赤毛のアン』 第10章  アンのおわび 村岡花子訳

Anne said no more until they turned into their own lane. A little gypsy wind came down it to meet them, laden with the spicy perfume of young dew-wet ferns. )

  しだ(ferns)や星草すずらん真紅の草の実がずっとその径に沿って茂り、空気にはいつも快い香気が漂っていた。   
            『赤毛のアン』 第15章  教室異変  村岡花子訳

white stemmed and lissom boughed; ferns and starflowers and wild lilies-of-the-valley and scarlet tufts of pigeonberries grew thickly along it; and always there was a delightful spiciness in the air and music of bird calls and the murmur and laugh of wood winds in the trees overhead. )

  ・・「妖精の泉」のほとりには、くるくると葉の先がちぢれた小さなしだ(little curly ferns)が勢いよく生えてきた。 ・・・・さんざしが咲きだし・・・やさしい花がのぞいていた。・・・
            『赤毛のアン』第20章  行きすぎた想像力  村岡花子訳

The maples in Lover's Lane were red budded and little curly ferns pushed up around the Dryad's Bubble.Away up in the barrens, behind Mr. Silas Sloane's place, the Mayflowers blossomed out, pink and white stars of sweetness under their brown leaves.

「シダ」が採りいれられているシーンは、『赤毛のアン』のなかで12件。いずれもその爽やかさ、香りの高さ、すがすがしさ、若さの象徴としての芽吹きと繁茂を表現しています。
 ・・・・ わらび(bracken)の中に腰までうまって、一人でそっと歌を歌っていた。頭には小暗い場所の妖精のようにさゆりで編んだ花輪をのせていた。・・・・『赤毛のアン』 第15章  村岡花子訳
 

ほかの場所ではシダを単にFernと表記しているのに対して、この妖精と化したアンをそばで見守るのはワラビ。
日本では、若いくるくるした芽は食用にもなり、根はわらびもちの材料として利用されますが、島ではどうでしょうか。

「若い芽は食用になる。ただし、ビタミンB1破壊酵素を含むので、多量に食べるとビタミン欠乏症になる」           (プリンスエドワード島州政府のガイドブック"Island Woodland Plants"より)

カナダの森のトウヒの下草として、あるいは野原に繁茂するワラビは、日本のそれよりずっと大きいのです。
大きな傘のような羽状の葉に包まれるように座り、花輪を頭に乗せたアン・・・ まるでアンは蕗の下の神様、コロポックル。
        
日本のお話です。
古代人は、握りこぶしを緩やかに開いたようなワラビやシダの新芽を、神霊が依りついた植物として尊重していました。渦を巻いている---渦巻きの形は永遠を表象するもの。この形を神聖なもの捉えていたのです。
 時代や地域を越えて、人間に共通する感性があるのでしょうか。
たとえば、ニュージーランドのマオリ族の人たちは、渦巻き模様は神が宿るとし、枯れた葉や茎から新芽が出てくることを「神のご守護があり、神は目の前に降臨している」と信じていました。
 先祖から繋がる世界を思わせることから、渦巻き模様は国のシンボル。現に、ニュージーランド航空の翼に描かれているのは渦巻き模様なのです。(ただし、シダ科の「シルバー・ファーン」)           

 『万葉集』にもこのシダが詠まれていますが、ただ 一首のみ。 しかしこの一首の感動的なこと! 
 
流れる水も、芽生えたばかりの木々の薄緑の葉も、首をもたげたワラビの姿も、目の前に見えるようです。 

  
   石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも   志貴皇子 巻8-1418 

    日本のワラビ 後ろのピンクはヒメサユリ   シルバーファーン (ニュージーランド)