真っ赤な草の実      

 ゴゼンタチバナ Bunchberry  Cornus canadensis ミズキ科ゴゼンタチバナ属

真紅の草の実とは、ゴゼンタチバナかアメリカヤマゴボウか

ゴゼンタチバナは、ミズキ科ミズキ属の常緑の多年草。針葉樹林や林縁に群生し、秋に房状の果実が赤く(スカーレット色)に熟し、葉も紅葉します。北東アジア、北米に分布し基準標本はカナダのもの。
葉は花茎の先に互生しますが、一見輪生のように付き、白くて花びらのように見える四枚の総包片が、中心の小さな花の集まりを取り囲んでいます。
ハナミズキやヤマボウシによく似ているのも道理で、同じミズキ科に属します。
そのため、「Dwarf Dogwood ・小人のハナミズキ」の名前も持ちます。

名前の由来は、加賀白山の最高峰の名前の「御前」、赤い実の「タチバナ」から。
          ( http://www.gov.pe.ca/ にゴゼンタチバナについての記述あり。)

 しだ(ferns)や星草(starflowersすずらんwild lilies-of-the-valley)や(*)真紅の草の実(scarlet tufts of pigeonberries)がずっとその道に沿って茂り、空気はいつも快い香気が漂っていた。
               『赤毛のアン』 第15章 学校異変

  (--- ferns and starflowers and wild lilies-of-the-valley and scarlet tufts of pigeonberries grew thickly along it;---)
 

ところが
松本侑子訳 『赤毛のアン』 の同じ場所(第15章163p)には、こうあります。

 鳩のいちごと呼ばれる深紅の房をつけたアメリカヤマゴボウが生えていた。」と。

      ところが、第30章368pでは クラッカー・ベリーをゴゼンタチバナと訳出しています。
 

  ピジョンベリー ゴゼンタチバナ  
  林の下草としてびっしり繁茂していた。
     ロッキーの山の中で。
 



 インクベリー
 (ヨウシュヤマゴボウ、アメリカヤマゴボウとも)
 赤黒い実が印象的


さて、学校への道沿いには、どの草の赤い実(pigeonberries)が茂っていたのでしょうか。

Field Guide to North American Wildflowers: Eastern Region』 によると、Pigeon berryも、CrackerberryBunchberryの別名とあります。クラッカー・ベリーは、食べるときパリパリと音がすることから。日本のサルトリイバラの実に似ていますね。アメリカヤマゴボウはヤマゴボウ科/ヤマゴボウ属の植物。
夏から秋にかけて、アンの背丈よりもはるかに高く繁茂し、果実ははじめ赤く、ついで濃い紫色に熟します。
その果実の汁は一旦染まるとなかなか取れず、インクベリー(Inkberry)の別名もあるくらい。
全草に毒を持ちます。放牧されている牛が食すると、延髄に作用し腹痛、 嘔吐、下痢を起こし、痙攣をおこして死亡することもある有毒植物。 放牧地に放置されたまま生育することは考えにくいのです。
霜が降りる季節になると、一晩で崩れ落ちるほど草本の部分は寒さに弱い植物。ただし多年草なので根は残ります。「鳩のいちご」・・・鳩の採餌は地面で行います。ゆらゆら揺れるアメリカヤマゴボウの実を食すには無理がありそうな。
さらに、Porkweed という別名も持つことから、名前を大事にする作者が、この言葉を選んだとは考えにくいのです。

 モンゴメリがこの「ヨウシュヤマゴボウ」をイメージしていたのなら、アンとダイアナがこの液果で遊び、赤紫色に染まってしまったエプロンを嘆くシーンを挟んでもよさそうですね。

冗談はさておき、小さくて地面をびっしり覆う植物が好きなモンゴメリ選んだのは、ゴゼンタチバナだと思います。しだや星草、すずらん(じつはマイヅルソウ)を楽しみながら学校へ行くアンとダイアナにとって、高くしげるアメリカヤマゴボウよりも、この背が低く群生するゴゼンタチバナの赤い実を、鳩が食べるのだと想像しながら通学するほうがふさわしいのではないでしょうか。

 
以上のことから、学校への道沿いに赤い実をつけていたのは、ゴゼンタチバナだと考えま した。

      
       ゴゼンタチバナの赤い実    アラスカ・マッキンリーの麓