『万葉集』には、すすき、をばな、草(かや)、屋根に葺く「み草」の名前で詠まれています。
秋の野の み草刈り葺き宿れりし 宇治の宮処の仮廬し思ほゆ
額田王 巻1-7
(屋根に葺くススキを、「み草」と詠んでいます。「み」は美称)
わが背子は 仮廬作らす草無くは 小松が下の草を刈らさね 中皇命((間人皇女) 巻1-11
(草、すなわち葺く草)
大名児を 彼方野辺に刈る草の 束の間も我れ忘れめや 草壁皇子(日並皇子命) 巻2-110
(大名児とは、石川郎女。大津皇子とこの石川郎女は、互いに思う仲でした。)
はだ薄 久米の若子がいましける
三穂の石室は見れど飽かぬかも 博通法師 巻3-307
陸奥の 真野の草原遠けども
面影にして見ゆといふものを 笠郎女 巻3-396
黒木取り 草も刈りつつ仕へめど
いそしきわけとほめむともあらず 大伴家持 巻4-780
妹らがり 我が通ひ道の小竹すすき
我れし通はば靡け小竹原 作者不詳 巻7-1121
葛城の 高間の草野早知りて
標刺さましを今ぞ悔しき 作者不詳 巻7-1337
伊香山 野辺に咲きたる萩見れば
君が家なる尾花し思ほゆ 笠金村 巻8-1533
萩の花 尾花
葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝貌の花 山上憶良 巻8-1538
(秋の七種の歌。朝貌は今の桔梗か。)
秋づけば 尾花が上に置く露の
消ぬべくも我は思ほゆるかも 日置長枝娘子 巻8-1564
我が宿の
尾花が上の白露を消 たずて玉に貫くものにもが 大伴家持 巻8-1572
秋の野の 尾花が末を押しなべて
来しくもしるく逢へる君かも 阿部虫麻呂 巻8-1577
めづらしき
君が家なる花すすき 穂に出づる秋の過ぐらく惜しも 石川広成 巻8-1601
はだすすき
尾花逆葺き黒木もち 造れる室は万代までに 太上天皇(元正天皇) 巻8-1637
......草枕
旅の憂へを慰もることもありやと.......(長歌) 高橋虫麻呂 巻9-1757
.....天地の初めの時ゆ天の川い向ひ居りて.......(長歌)
作者不詳 巻10-2089
人皆は
萩を秋と言ふよし 我れは尾花が末を秋とは言はむ 作者不詳 巻10-2110
秋の野の 尾花が末に鳴くもずの
声聞きけむか片聞け我妹 人麻呂歌集 巻10-2167
夕立ちの
雨降るごとに春日野の 尾花が上の白露思ほゆ 作者不詳 巻10-2169
我が宿の
尾花押しなべ置く露に 手触れ我妹子散らまくも見む 作者不詳 巻10-2172
我が門に
守る田を見れば佐保の内の 秋萩すすき思ほゆるかも 作者不詳 巻10-2221
秋の野の 尾花が末の生ひ靡き
心は妹に寄りにけるかも 作者不詳 巻10-2242
道の辺の 尾花が下の思ひ草 今さらさらに何をか思はむ
作者不詳 巻10-2172
さを鹿の 入野のすすき初尾花
いづれの時か妹が手まかむ 作者不詳 巻10-2277
我妹子に 逢坂山のはだすすき
穂には咲き出ず恋ひわたるかも 作者不詳 巻10-2283
秋萩の 花野のすすき穂には出でず
我が恋ひわたる隠り妻はも 作者不詳 巻10-2285
秋津野の 尾花刈り添へ秋萩の花を
葺かさね君が仮廬に 作者不詳 巻10-2292
はだすすき
穂には咲き出ぬ恋をぞ我がする 玉かぎるただ一目のみ見し人ゆゑに 作者不詳 巻10-2311
紅の 浅葉の野らに刈る草の
束の間も我を忘らすな 作者不詳 巻11-2763
み吉野の
秋津の小野に刈る草の 思ひ乱れて寝る夜しぞ多き 作者不詳 巻12-3065
岡に寄せ
我が刈る萱のさね萱の まことなごやは寝ろとへなかも 作者不詳 巻14-3499
新室の 蚕どきに至ればはだすすき
穂に出し君が見えぬこのころ 東歌 巻14-3506
かの子ろと
寝ずやなりなむはだすすき 宇良野の山に月片寄るも 東歌 巻14-3565
帰り来て 見むと思ひし我が宿の
秋萩すすき散りにけむかも 秦田麻呂 巻15-3681
...天地と
ともにもがもと思ひつつ ありけむものを.......(長歌) 葛井連子老 巻15-3691
はだすすき
穂にはな出でそ思ひたる 心は知らゆ我れも寄りなむ 娘子 巻16-3800
夕立の 雨うち降れば春日野の
尾花が末の白露思ほゆ 小鯛王 巻16-3819
天にある やささらの小野に茅草刈り
草刈りばかに鶉を立つも 作者不詳 巻16-3887
....天離る
鄙治めにと大君の 任けのまにまに.......(長歌) 大伴家持 巻17-3957
(弟の書持の死を痛んで。)
婦負の野の
すすき押しなべ降る雪に 宿借る今日し悲しく思ほゆ 高市黒人 巻17-4016
高円の 尾花吹き越す秋風に 紐解き開けな直ならずとも
大伴池主 巻20-4295
初尾花
花に見むとし天の川 へなりにけらし年の緒長く 大伴家持 巻20-4308 |