万葉の植物  すすき  を詠んだ歌
                              2011.9.1 更新

 
 
   すすき  をばな かや  現在の ススキ (イネ科)
                (万葉表記  為酢寸 須為寸 須珠寸 為為寸 須酒技 須須吉 尾花 芒 )  
     

集中、このススキは44首詠まれているとされますが、
すすき、をばな、草(かや)、屋根に葺く「み草」の名前で詠まれてい ることから、その数は確定していません。
万葉の時代から身近に感じられ、庭に栽培されることもあり、紙や屋根材としても利用され、秋の野の風景には欠かすことの出来ない植物 でした。
穂が出る直前のススキはその色から「ハダススキ(膚・皮・波太)ススキ)と呼ばれました。
「ハタススキ」は「旗薄」、花穂が風にゆれ旗がなびいているような様子を表します。
「ハダススキ」は「ハタススキ」の子音交代でしょうか。
「ハナススキ」は「花薄」。新穂が秋の日に輝き揺れる様子が、いかにも新鮮に感じられます。まだ若い花穂が直立し、初秋の日をはね返すかのように明るく輝いている姿にぴったりですね。

清少納言は『枕草子』で、このハナススキの色を「濃い蘇芳色」と表現しています。さすがですね。
しかし、「... 秋のはてぞ、いと見どころなき、色々みだれ咲きたりし花の、かたちもなく散りたるに..... あはれと思ふべかれ....」と剥落した情景を書いています。

咲き進んだ花穂が白くほほけた形状は、尾花と呼ばれます。 
         幽霊の正体見たり枯尾花  (これではあんまりですね。)

        狐火の燃えつくばかり枯尾花      蕪村

さて、オギとススキです。混同しがちです。
       
    葦辺なる 萩(オギ)の葉さやぎ秋風の 吹き来るなべに 雁鳴き渡る  巻10-2134

水中に生える葦(ヨシ・アシとも)と湿地に生えるオギとを区別しています。ススキは乾燥した土地に生えるのに対し、オギは沼や川といった湿地に生えます。違いは、
ススキ
 株状に叢生する。地下茎は短く分枝する。葉柄に長い毛がある。花穂には5ミリ前後の長いノギがある。
オギ
 1本ずつ生える。地下茎は縦横に伸び、伸びた先から芽を出す。葉柄と鞘面に毛がある。ノギが無い。

その昔、ススキは固定した植物の名前ではなく、群がり茂る草の総称でした。ススキとは草を形容する言葉なのだ、とも考えられますね。草が 群れ生えている様子を「薄(はく)」と言い、現在もススキを漢字表記すると「薄」となります。
 

『万葉集』には、すすき、をばな、草(かや)、屋根に葺く「み草」の名前で詠まれています。

 秋の野の み草刈り葺き宿れりし 宇治の宮処の仮廬し思ほゆ       額田王 巻1-7
   (屋根に葺くススキを、「み草」と詠んでいます。「み」は美称)

 わが背子は 仮廬作らす草無くは 小松が下の草を刈らさね       中皇命((間人皇女) 巻1-11
   (草、すなわち葺く草)

 大名児を 彼方野辺に刈る草の 束の間も我れ忘れめや         草壁皇子(日並皇子命) 巻2-110
  (大名児とは、石川郎女。大津皇子とこの石川郎女は、互いに思う仲でした。)

 はだ薄 久米の若子がいましける  三穂の石室は見れど飽かぬかも     博通法師  
巻3-307   
  
 陸奥の 真野の草原遠けども  面影にして見ゆといふものを        笠郎女 巻3-396

 黒木取り 草も刈りつつ仕へめど  いそしきわけとほめむともあらず    大伴家持 巻4-780

 妹らがり 我が通ひ道の小竹すすき  我れし通はば靡け小竹原       作者不詳 巻7-1121

 葛城の 高間の草野早知りて  標刺さましを今ぞ悔しき          作者不詳 巻7-1337

 伊香山 野辺に咲きたる萩見れば  君が家なる尾花し思ほゆ         笠金村 巻8-1533

 萩の花 尾花  葛花 なでしこの花 をみなへし また藤袴 朝貌の花    山上憶良 巻8-1538
  (秋の七種の歌。朝貌は今の桔梗か。)

 秋づけば 尾花が上に置く露の  消ぬべくも我は思ほゆるかも       日置長枝娘子 巻8-1564

 我が宿の  尾花が上の白露を消 たずて玉に貫くものにもが        大伴家持 巻8-1572

 秋の野の 尾花が末を押しなべて  来しくもしるく逢へる君かも     阿部虫麻呂  巻8-1577

 めづらしき  君が家なる花すすき 穂に出づる秋の過ぐらく惜しも  
   石川広成 巻8-1601 
 
 はだすすき  尾花逆葺き黒木もち 造れる室は万代までに        太上天皇(
元正天皇)  巻8-1637

 ......草枕  旅の憂へを慰もることもありやと.......(長歌)         高橋虫麻呂 巻9-1757

 .....天地の初めの時ゆ天の川い向ひ居りて.......(長歌)            作者不詳 巻10-2089

 人皆は  萩を秋と言ふよし 我れは尾花が末を秋とは言はむ         作者不詳 巻10-2110

 秋の野の 尾花が末に鳴くもずの  声聞きけむか片聞け我妹        人麻呂歌集  巻10-2167
 
 夕立ちの  雨降るごとに春日野の 尾花が上の白露思ほゆ          作者不詳 巻10-2169

 我が宿の  尾花押しなべ置く露に 手触れ我妹子散らまくも見む       作者不詳 巻10-2172

 我が門に  守る田を見れば佐保の内の 秋萩すすき思ほゆるかも      作者不詳 巻
10-2221

 秋の野の 尾花が末の生ひ靡き  心は妹に寄りにけるかも         作者不詳 巻10-2242

 道の辺の 尾花が下の思ひ草 今さらさらに何をか思はむ          作者不詳 巻10-2172

 さを鹿の 入野のすすき初尾花  いづれの時か妹が手まかむ        作者不詳 巻10-2277

 我妹子に 逢坂山のはだすすき  穂には咲き出ず恋ひわたるかも       作者不詳 巻
10-2283

 秋萩の 花野のすすき穂には出でず  我が恋ひわたる隠り妻はも       作者不詳 巻
10-2285

 秋津野の 尾花刈り添へ秋萩の花を  葺かさね君が仮廬に         作者不詳 巻10-2292

 はだすすき  穂には咲き出ぬ恋をぞ我がする 玉かぎるただ一目のみ見し人ゆゑに  作者不詳 巻10-2311

 紅の 浅葉の野らに刈る草の  束の間も我を忘らすな           作者不詳  巻11-2763

 み吉野の  秋津の小野に刈る草の 思ひ乱れて寝る夜しぞ多き       作者不詳 巻12-3065

 岡に寄せ  我が刈る萱のさね萱の まことなごやは寝ろとへなかも      作者不詳 巻14-3499

 新室の 蚕どきに至ればはだすすき  穂に出し君が見えぬこのころ      東歌 巻14-3506

 かの子ろと  寝ずやなりなむはだすすき 宇良野の山に月片寄るも       東歌 巻14-3565

 帰り来て 見むと思ひし我が宿の  秋萩すすき散りにけむかも        秦田麻呂 巻15-3681

...天地と  ともにもがもと思ひつつ ありけむものを.......(長歌)       葛井連子老  巻15-3691

 はだすすき  穂にはな出でそ思ひたる 心は知らゆ我れも寄りなむ      娘子 巻16-3800

 夕立の 雨うち降れば春日野の  尾花が末の白露思ほゆ           小鯛王 巻16-3819

 天にある やささらの小野に茅草刈り  草刈りばかに鶉を立つも       作者不詳 巻16-3887

 ....天離る  鄙治めにと大君の 任けのまにまに.......(長歌)         大伴家持  巻17-3957
  (弟の書持の死を痛んで。)

 婦負の野の  すすき押しなべ降る雪に 宿借る今日し悲しく思ほゆ     高市黒人 巻17-4016

 高円の 尾花吹き越す秋風に 紐解き開けな直ならずとも           大伴池主  巻20-4295

 初尾花  花に見むとし天の川 へなりにけらし年の緒長く          大伴家持 巻20-4308