スノーボール  

  スノーボール Snowball Viburnum opulus) スイカズラ科ガマズミ属

『アン』の中のスノーボールと呼ばれる花樹は、ヨウシュカンボク(Viburnum opulus)の園芸改良種であるテマリカンボク。セイヨウカンボク、セイヨウテマリカンボクとも呼ばれます。
ヨーロッパ原産で、日本のオオデマリの花とそっくり。
違いはカナダのスノーボールの葉はカエデのように三つに分かれているのに対し、日本のオオデマリ(Japanese Snowball)は縁にギザギザのある卵型の葉であること。日本のオオデマリは、日本原産のヤブデマリの変種で園芸品種です。
落葉低木で、五月に写真のような白くて丸い花を付けます。学名のViburnum plicatum のプリツカムとはプリーツのある、という意味で、その通り、ひだひだのある卵型の葉を対生します。
花の直径は十センチほど。オオデマリ・大手毬の名前のとおり、手の平でぽんぽん弾いて遊ぶことができるくらい。
オオデマリはやや暑さに弱いのか、関西ではあまり見かけませんでしたが、ここ関東北部ではどの家の庭にもある、と言っても言い過ぎでないくらい気候に適した樹木です。
園芸種の元になったカナダのヨウシュカンボク、日本のテマリカンボクともに、受粉し秋には実を稔らせますが、園芸改良種のスノーボールは、カナダ、日本共に受粉せず、果実を実らせることはありません。
双方まん丸の白い花は、雄しべと雌しべが退化した装飾花なので、受粉しないからです。
良く似た名前で、おまけに花の雰囲気まで似た植物のコデマリは、バラ科の植物。スイカズラ科のオオデマリとは所属科を別にします。

  みがきのかかったテーブルには、大きな青い鉢にあふれるばかりスノーボールの花が盛られ(A great blue bowlful of snowballs overflowed on the polished table.)、光沢のある黒い炉棚には、ばらとしだがこんもりと活かっていた。どんな小棚にもほたるぶくろが挿してあり、炉格子の暗い両隅には燃えるような黄色いけしをもりあげた壺が飾ってあった。この色とりどりの花のにぎわいに加えて、窓にからんだ忍冬のつるのあいだから光線がさし込んで ・・・・  
              『 アンの青春』 第17章 待ちあぐねた日

 A great blue bowlful of snowballs overflowed on the polished table. The shining black mantelpiece was heaped with roses and ferns. Every shelf of the what-not held a sheaf of bluebells; the dark corners on either side of the grate were lighted up with jars full of glowing crimson peonies, and the grate itself was aflame with yellow poppies. All this splendor and color, mingled with the sunshine falling through the honeysuckle vines at the windows in a leafy riot of dancing shadows over walls and floor, made of the usually dismal little room the veritable "bower" of Anne's imagination, and even extorted a tribute of admiration from Marilla, who came in to criticize and remained to praise.
 

    テマリカンボク  葉が三裂します

 庭のオオデマリ  葉に切れ込みはありません


あこがれの作家・モーガン夫人を迎えるために、アンとダイアナは朝から大車輪。アンの美的センスの見せどころでしょう。
ただし、このスノーボールは切り花にすると水揚げが悪く、切っても短時間しかその美しさが持続しません。ですから、スノーボールの立場からも、この午後にモーガン夫人の訪問がぜひ実現して欲しかったところです。
このモーガン夫人を迎えるシーンに「、ばらとしだがこんもりと活かっていた。」の表現がありますが、読むたびこの場所で引っかかります。
なぜ、自動詞の「活かっていた」を遣ったのか?
前後の表現からここは「活けてあった」とするところでしょう。
辞書で調べてみると、自動詞は自動詞ではあるが、「その状態にある」表現に使う」、とありました。戦中の時代色がこんなところでぽろりとこぼれます。
 
右の写真は、私の庭で。
花の後、白い花びらがかたまりで地面に舞い落ち、雪が降ったような輝きを見せます。
その下にはレンプクソウ(連福草)が苔を敷き詰めたように繁殖しているのです。