アイリス      

   アイリス ブルーフラッグ (Blue flag) Iris versicolor アヤメ科アヤメ属 
 
 ジェーンがこの難局にあたった。上にかける金襴地はなかったが、黄色い日本ちりめんの古いピアノ掛が代用品を勤めた。
白ゆりの花もなかったが、茎の長い、青いアイリス(blue iris)をアンの組み合わせた手の一つに持たせるとすてきな効果がでた。・・・          『赤毛のアン』 第28章   たゆとう小舟の白ゆり姫

 (Jane rose to the occasion. Cloth of gold for coverlet there was none, but an old piano scarf of yellow Japanese crepe was an excellent substitute. A white lily was not obtainable just then, but the effect of a tall blue iris placed in one of Anne's folded hands was all that could be desired. )
 

『赤毛のアン』の作中、アイリスが出ている場面は一件だけ。アーサー王の伝説の中の、百合の乙女エレーン姫のお芝居を演じるのに手にしたのがこのアイリス。
学名のIris はギリシャ語の虹の意味。虹のように色の重なり合った美しさを表現するのにふさわしいですね。
「日本ちりめんのピアノ掛け」に、作者モンゴメリの日本趣味が伺われます。

ユリのページに書きましたが、欧米ではユリとアイリスを混同することもあり、すんなりした白い花姿のものを「Lily」の名前で呼ぶ例も見られます。
スズランはLily of the Vally  マイヅルソウを Wild Lily of the Vally と呼ぶように。


平底の小舟に横たわったアンの手を飾った青いアイリスは、島ではブルーフラッグ(Blue flag)と呼ばれ、池や沼、川沿いなどの湿地に生え、初夏から夏にかけて青紫色の花を咲かせます。

Flag?-----
葉が剣状の植物を、たとえばアヤメ、キショウブ、ショウブ、ガマ、ヨシなどもFlagと呼びます。
アイリスは全草に植物毒を持ちますが、下剤として利用された歴史があります。

 実をいえばアンは非常にロマンチックならぬ、非常にひどい鼻かぜを引いているのだった。
そのおかげで、常盤木荘の毒人参のうしろのやわらかな緑色の空をたのしむことも、『嵐の王』上にかかる銀白色の月も、部屋の窓の下から漂ってくるライラックの香も、テーブルの上の花瓶にさした霜のかかったような、青鉛筆で描いたような、アイリスの花(the frosty, blue-penciled irises)もたのしむことができなかった。 
                                                                     『アンの幸福』 2年目11章

 (The truth was that Anne was the victim of a very severe and very unromantic cold in the head. It would not allow her to enjoy the soft green sky behind the hemlocks of The Evergreens, the silver-white moon hanging over the Storm King, the haunting perfume of the lilacs below her window or the frosty, blue-penciled irises in the vase on her table. It darkened all her past and overshadowed all her future.)

 
形容詞を連ねて描写する作者です。あれもこれもすべて感じたことを表現したい・・・自分の文章を引き算することは、時に身を切られるような切なさを伴うのかもしれません。
アヤメもそうですが、この場面の「毒人参」が気になりますね。別紙でみてみましょう。
 

 日本のアヤメ (那須高原沼原湿原の土手)
 
   庭の花ショウブ (畑で咲かせています)
アンが花瓶に挿した作中のアイリスは、日本のアヤメにそっくり。
日本のアヤメは草原や山里の乾燥した土地に生えますが、島では湿地に生えるという違いがあるくらいなのです。このすっと背の高いアイリスを花瓶に何本かセンスよく活けるのはなかなか難しく、 私なら雪柳の枝をたわめ、直立するアヤメとのバランスを取るかもしれないか。おお、脱線しました。
この部分を読んで、さすが、美的センスがある人は違うな --- と感じたのです。
 
アヤメの名前の由来は? 
花びらに網目模様があることから、綾目・アヤメの和名が付きました。

万葉時代の日本で、「あやめ」の名はサトイモ科のショウブ(アヤメグサ)を指した語で、現在のアヤメは「はなあやめ」と呼ばれています。

古代の中国では、5月の端午(月の初めの午の日)の日に、薬草を摘み、蘭を入れた湯で沐浴し、菖蒲を浸した酒を飲み病気や邪気、災厄を祓う行事が行われていたました。  (→ ニオイショウブ 『アンの幸福』2年目)
日本にもこの行事が伝わったと考えられます。
 

    ○ 水の面に青き花持ち夢欲れば風の生まれてみず兆しくる  (Ka)