万葉の植物  あやめぐさ   を詠んだ歌
                             2011.7.11 更新                

 

     畑に植えているせいか、花が咲きません


   
あやめぐさ (万葉表記 菖蒲草 菖蒲 安夜女具佐 安夜売具佐)    ショウブ  (サトイモ科)

あやめぐさは、現在のショウブ(サトイモ科)。独特の強い香りから邪気を祓うとみなされていました。
花とも思えない地味な花 が咲くようですが、我が家には池など無いので仕方なく畑に植えています。水分が足りないのでしょう、何年経っても花を付けません。

子供の頃、
端午の節句に 菖蒲を軒先にさしたり、菖蒲湯を楽しんだりした思い出があります。皆さんはいかがでしょう?
ふとあの香りが甦ることもあり、季節の移り変わりに心を澄ませ、折々の行事を大切にしていた両親に、今となっては感謝するばかりです。

古代の中国では、5月の端午(月の初めの午の日)の日に、薬草を摘み、蘭を入れた湯で沐浴し、菖蒲を浸した酒を飲み病気や邪気、災厄を祓う行事が行われていたました。
日本にもこの行事が伝わったと考えられます。 → 薬草狩り

  (参考) 五節句には、それぞれの行事に関わる植物と食べ物があります。
     人日 一月七日   七草     七草粥
     上巳 三月三日   桃      草餅
     端午 五月五日   菖蒲     粽
     七夕 七月七日   笹・竹    索餅(さくべい)
     重陽 九月九日   菊      菊酒、栗飯

集中ホトトギス(杜鵑)を取り合わせた歌が多く、次にハナタチバナ(花橘)そして蓬(ヨモギ) 。
いずれも香りが高く呪力のある植物です。
杜鵑の鳴き声は、それどほ趣のあるものとは思えませんが、取り合わせ=様式美だったのかもしれませんね。
那須で杜鵑の初鳴きを聞くのは新暦の5月初め。
旧暦の端午の節句の頃には、空一面にあの鳴き声が響き渡ります。それも朝早くから。
まだ明け初めぬころから響く声を聞きながら、夏の朝の惰眠をむさぼる気分は、まことに捨てがたいものがあります。

 [てっぺんかけたか] 「とうきょうとっきょきゃかきょく] --- と聞きなしますが、[ おとうときった。弟切った]と聴きなす人も。

       オトギリソウ (弟切草 オトギリソウ科)

このオトギリソウ。特に切り傷や虫刺されに薬効があります。
その昔、秘伝の薬効の秘密を洩らした弟を切り殺した兄が、生まれ変わったのがホトトギス。
今も空高く[ おとうときった][おとうときった]叫んで罪の意識に苛まれている---との話が伝わります。
葉の裏を透かして見れば、弟の血が飛び散ったような赤い斑点が並んでいるのが見て取れます。


 
つのさはふ  磐余の道を朝さらず 行きけむ人の思ひつつ 通ひけまくは霍公鳥 鳴く五月にはあやめぐさ 花橘を玉に貫き かづらにせむと 九月のしぐれの時は黄葉を 折りかざさむと延ふ葛の いや遠長く万代に 絶えじと思ひて通ひけむ 君をば明日ゆ外にかも見む  (長歌) 山前王 巻3-423

   ((
沈香、丁子なども香料を玉にして錦の袋に入れ、菖蒲や蓬を添え5色の糸を長く垂らし、邪気を避けるためのまじないにしたのが薬玉。万葉時代には薬玉を作り菖蒲を頭に巻きつけ邪気を祓いました。)

 霍公鳥  待てど来鳴かず菖蒲草 玉に貫く日をいまだ遠見か   大伴家持 巻8-1490

 霍公鳥  いとふ時なしあやめぐさ かづらにせむ日こゆ鳴き渡れ  田辺福麻呂 巻18-1955  

 高御座  天の日継とすめろきの.......(長歌)              大伴家持 巻18-4089

 珠洲の  海人の沖つ御神に.......(長歌)                 大伴家持 巻18-4101

  白玉を  包みて遣らばあやめぐさ 花橘にあへも貫くがね      大伴家持 巻18-4102

 霍公鳥  今来鳴きそむあやめぐさ かづらくまでに離るる日あらめや  大伴家持 巻19-4175

 我が背子と  手携はりて明けくれば.......(長歌) 大伴家持 巻19-4177 
  (大伴池主に贈った歌。あなたと興趣を共にしたい、とひたすらに歌う家持)