ゆり  

  白ユリ → ユリ Lily → Madonna lily  (Lilium candium)
                                                                                     
ユリ科ユリ属 ニワシロユリ
 

ユリ科ユリ属の代表。マドンナ・リリーとはバルカン半島や西アジアを原産とする大輪で香りが高いユリ。
ヨーロッパではユリに特別な意味を持たせていて、聖母マリアを意味するマドンナの名を冠したユリは、神の祝福、乙女の純潔や無垢を象徴します。
古くから貴重な百合として栽培され、古代ユリはこのマドンナリリーを指しました。
マリアと精霊の霊的な結合として、受胎告知の絵画には、このマドンナ・リリーが描かれています。
純潔なマリアとの結びつきは天上界のものだという意味を持ちましょうか。
聖母を象徴する花なので、ユリは教会の結婚式や、花嫁や花婿を飾られ、キリスト教を代表する花と言えます。
バチカン市国の国花。
 

 ・・・ 庭の白ゆり(Madonna lilies)の香りは目に見えない風に乗って、戸口という戸口、窓という窓から祝福の精のように広間や部屋にただよってきた。
                   『赤毛のアン』 第14章 アンの告白

 (Wednesday morning dawned as bright and fair as if expressly made to order for the picnic. Birds sang around Green Gables; the Madonna lilies in the garden sent out whiffs of perfume that entered in on viewless winds at every door and window, and wandered through halls and rooms like spirits of benediction. )

「spirits of benediction  」・・・ここですでに、アンは許されピクニックへ参加できることを暗示しています。
  
 今夜は白ユリ(white lilies)が部屋中に夢のような、ほのかな香りをただよわせていた。
                 『赤毛のアン』第33章  ホテルの音楽会

(Tonight a spike of white lilies faintly perfumed the room like the dream of a fragrance. )

また、フランスのルイ王家の紋章として知られ、白百合をフランス百合と呼ぶこともあります。 
しかしこの紋章は、もとはアイリスが使われていたのです。
 

   ・・白ゆりの花もなかったが、茎の長い、青いアイリスをアンの組み合わせた手の一つに持たせるとすてきな効果がでた。                  
                  『赤毛のアン』 第28章  たゆとう小舟の白ゆり姫

(Jane rose to the occasion. Cloth of gold for coverlet there was none, but an old piano scarf of yellow Japanese crepe was an excellent substitute. A white lily was not obtainable just then, but the effect of a tall blue iris placed in one of Anne's folded hands was all that could be desired. )

当時、島ではテニソンの詩を学課に採りいれるように指導されていました。夢想癖のあるアンが、とりこにならないはずがありません。
 

  庭のカサブランカ
 

  白いカラーを背景に   庭の鉄砲百合

ですからアンがエレーン姫を演じるときに、アイリスを準備したのは、知ってかどうか、意味のある選択でした。二重の花の意味を持たせたモンゴメリの「これって、アイリスをわざと選んだのよ、読者のみなさん、分かってね」。
ふふと微笑みながらつぶやく彼女の顔が見えるよう?

幕末にシーボルトが日本のユリの球根をヨーロッパに持ち帰ったことを契機に、ユリの球根は近代日本において絹に次ぐ二番目の主要輸出品として外貨を獲得した歴史を持ちます。
現在もマドンナ・リリーの代わりとして、日本原産の鉄砲百合が用いられることが多く、輸出も盛んにおこなわれています。

「ソロモンの栄華もゆりに如かず」 ・・・ 神の創造物(自然)に人間の知恵は及ばない。
しかし、聖書にしばしば登場するユリも、いわゆり現在の百合の花ではなく、野の花を表す、あるいは、赤いアネモネを意味するという説もあるのが興味深いところです。
また、欧米ではユリとアイリスを混同することもあり、すんなりした白い花姿のものを「Lily」の名前で呼ぶ例も見られます。

スズランはLily of the Vally  マイヅルソウを Wild Lily of the Vally と呼ぶように。
 

○ こゑあげてよぶにまどひぬ星の世に小百合しら萩もつ神は一つ         山川登美子 『恋衣』
○  髪長き少女(をとめ)とうまれしろ百合に額(ぬか)は伏せつつ君をこそ思へ  山川登美子 『恋衣』