万葉の植物  しだくさ  を詠んだ歌
                            2012.12.22 更新            

 

    
     ノキシノブ                            シノブ


   
しだくさ (万葉表記  子太草)     ノキシノブ ウラボシ科) シノブ ( シノブ科)

ノキシノブ、シノブともに北海道の一部をのぞく日本全国の樹木、岩などに着生するシダ植物。シノブはシダの古名のひとつ。ノキシノブは常緑、シノブは冬の間は葉を落とし夏緑性。
シダ類が軒端に生えるのは、古屋の証拠。長い間の憧れや恋しい心、偲ぶ思いをノキシノブ、シノブと言った植物の名前を借りてイメージを作り出します。

思い出すのは、
   
 陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに れそめにし我ならなくに    河原左大臣(源融)

(「信夫摺り」とは、シノブ草の茎や葉の色を布にすりつけて染めた、ねじれた模様の織物。忍摺りから。福島県信夫郡のものが特に有名だったため「忍摺り」が「信夫摺りに変化しました。)

「信夫文知摺石」の伝説
「陸奥に按察使(あぜち)として赴任していた嵯峨天皇の皇子・中納言源融が、信夫の里の村長の娘・虎女を見初め、いつしか二人は愛し合うようになった。しかし、融のもとへ帰京の命がくだる。悲しむ虎女に融は再会を約束し、都に旅立つ。残された虎女は、恋しさのあまり文知摺石を麦草で磨き、ついに融の面影を石に映し出すことができた。精根尽き果てた虎女は恋人との再会もかなわず亡くなってしまった。


  わが屋戸の軒の子太草生ふけれども恋忘れ草見れどいまだ生ひず  柿本人麻呂歌集 巻12-2475 
(分かりやすい歌。かなわぬ恋は苦しいもの。その思いを恋忘れ草と子太草に託します。)

 ま延ふ 春日の山は うち靡く 春さりゆくと 山の上に 霞たなびく 高円に 鴬鳴きぬ もののふの 八十伴の男は 雁が音の 来継ぐこの頃 かく継ぎて 常にありせば 友並めて 遊ばむものを 馬並めて 行かまし里を 待ちかてに 我がする春を かけまくも あやに畏し 言はまくも ゆゆしくあらむと あらかじめ かねて知りせば 千鳥鳴く その佐保川に 岩に生ふる 菅の根採りて 偲ふ草 祓へてましを 行く水に みそぎてましを 大君の 命畏み ももしきの 大宮人の 玉桙の 道にも出でず 恋ふるこの頃                                     作者不詳 巻6-948

(この歌の偲ぶ草は、右写真のシノブか。偲ぶ草とは、特定の植物をさす場合と、同音の偲ぶの掛詞としての意味を持つ場合とがあります。掛詞、枕詞を多用して、ある状況や思いを作りあげます。)