万葉の植物 やますげ    を詠んだ歌
                          2011.1.25 更新               

 

      
     ヤブラン (ユリ科)               カヤツリグサ (カヤツリグサ科)     


   
や ますげ (万葉表記  山菅夜麻須気 夜麻須我 山草)    ヤブラン   ジャノヒゲ   スゲ類の総称 

左写真のヤブランはユリ科の常緑多年草。高さは30cm前後で、木質の根茎からすんなりと艶のある幅1cmほどの長い葉を四方に伸ばします。やや日陰になる場所を好み、花期は夏から秋で紫色の綺麗な花を穂状につけ、やがて黒く熟します。根茎を
根を漢方で麦門冬といい、強壮・鎮咳薬にするそうです。

右はカヤツリグサ(カヤツリグサ科)。 
子供のころこのカヤツリグサの茎を引き裂き、4角形を作って遊んだものです。いや、いまでも散歩道でこのカヤツリグサを見かけるとつい同じ遊びをしてしまうのです。この4画形が吊られた蚊帳に似ていることから名づけられました。
この植物の仲間で一番知られているのはパピルス。

 ←これはヤブランの実 黒く熟しています。


 山菅の 実ならぬことを我れに寄せ言はれし君は誰れとか寝らむ  大伴坂上郎女 巻4-564
(「山菅の」は「実」の枕詞。実ならぬ、すなわち実の無い、実体の伴わないこと。なんの関係も無いこと。宴会の歌とはいえ、ピシリと相手を言い負かす大伴坂上郎女。さぞかし家刀自としてふさわしい婦人だったのでしょう。)

 妹がため 菅の実摘みに行きし我れ  山道に惑ひこの日暮らしつ  柿本人麻呂歌集 巻7-1250

 ぬばたまの  黒髪山の山菅に 小雨降りしきしくしく思ほゆ    柿本人麻呂歌集 巻き11-2456

 山菅の 乱れ恋のみせしめつつ  逢はぬ妹かも年は経につつ    柿本人麻呂歌集 巻11-2474

  あしひきの  名負ふ山菅押し伏せて 君し結ばば逢はずあらめやも   作者不詳 巻11-2477
(「あしひきの」は「名」にかかる枕詞。「あしひきの名負ふ山菅押し伏せて 」までは序詞。積極的ですね。)

  山川の水蔭に生ふる山菅のやまずも妹は思ほゆるかも       柿本人麻呂歌集 巻12-2862

  あしひきの山菅の根のねもころに  我れはぞ恋ふる君が姿を   作者不詳 巻-3051

 あしひきの  山菅の根のねもころに やまず思はば妹に逢はむかも 作者不詳 巻12-3053

  山菅の 止まずて君を思へかも  我が心どのこの頃はなき     作者不詳 巻12-3055
 (ヤマスゲの「山」と同じ音の「「止まず」にかかります。)

 妹待つと 御笠の山の山菅の  止まずや恋ひむ命死なずは    作者不詳 巻12-3066

 玉葛 幸くいまさね山菅の  思ひ乱れて恋ひつつ待たむ      作者不詳 巻12-3204
(葉が乱れている様子から、「乱れる」「背向(そがひ)」にかかります。

 愛し妹を いづち行かめと山菅の  そがひに寝しく今し悔しも  東歌 挽歌 巻14-3577
(この気持ち、よく分かります。いま手にしている幸せに気づかないものです、人間は)

 咲く花は 移ろふ時ありあしひきの  山菅の根し長くはありけり 大伴家持 巻20-4483
(栄えるものはいつか滅びの道をたどるもの。長く変わりなくありたいと願う家持の心のなかには、大伴家頭領としての自負があったことでしょう。しかし、政治の流れはいかんともしがたく、無力感に襲われるのみ。)