万葉の植物  しば  を詠んだ歌
                             2012.11.2 更新            

 

     
    新緑のコナラの林                 不用な柴を積んである山


   
しば  (万葉表記  柴 志婆 志波 之波 少歴木 )      山野に自生する雑木

「しば」は山野に自生する雑木をさします。伐採したら植林しないと育たないヒノキスギなどの有用木に対しての雑木。いわゆる雑木林を形作る木々。シイ、コナラ、ツツジなどは、根元から伐採しても再度ひこばえが生えてきます。
柴刈りとは、雑木林で低木を刈って小枝や枯れ枝を集めて焚きつけにしたり、木の実やキノコ、山菜などの食料を取りに行くことをいいます。むかしから里山は人々によって手入れを続けられてきました。それがいまや那須の里山も荒れるにまかせられています。

「むかしむかし。おじいさんは柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に---。そこへおおきな桃が流れてきて---」
桃太郎伝説のおじいさんは、生活の資を求めて山へ出かけたのですね。
        

   
  桃太郎伝説の故郷、岡山県・廣榮堂のきびだんご。

 
大原のこのいち柴のいつしかと我が思ふ妹に今夜逢へるかも                    志貴皇子 巻4-513

(いちしばとは、優れている、立派だという意味。この歌ではよく茂った柴。「大原のこのいち柴の」は「いつしか」と導く序詞。いつになったら会えるかと思っていたが、ようやく今夜会えて嬉しい。志貴皇子は天智天皇の皇子。流麗な詠みぶりで知られます。)

道の辺のいつ柴原のいつもいつも人の許さむ言をし待たむ                        作者不詳 巻11-2770

天霧らし雪も降らぬかいちしろくこのいつ柴に降らまくを見む                    若桜部朝臣君足 巻8-1643  

住吉の出見の浜の柴な刈りそね娘子らが赤裳の裾の濡れて行かむ見む     旋頭歌 柿本人麻呂歌集  巻7-1274
(娘子、乙女、をとめとは未婚の娘、特に官女を言いました。赤い裳が水に濡れたすがたに、えも言われぬ魅力を感じたのでしょう。)

佐保川の岸のつかさの柴な刈りそねありつつも春し来たらば立ち隠るがね  大伴坂上郎女 巻4-529
(柴を刈る人に呼びかける形で詠む大伴坂上郎女。)

生ふしもとこの本山のましばにも告らぬ妹が名かたに出でむかも             東歌 巻14-3488
(「しもと」は若い木の枝。「本山」は山のふもと。「ましば」と同音の「しばしば」を掛けてあります。めったに言わない恋しい人の名を、占いによって分かってしまうのだろうか。)

あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ           東歌 巻14-3573
  (譬喩歌.。山かづらをめったに手に入れられないような美人に喩えてあります。珍しい山かづらをそのままにしておいて枯らすなど、とんでもないこと。)