万葉の植物 ひかげ を詠んだ歌 2010.12.25 更新 |
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ひかげ (万葉表記 山下日陰、 夜麻可都良加気 、 賀都良賀気) (やまかづら、 やまかずらかげ、 かづらかげ) 現代では、ヒカゲノカズラ (ヒカゲノカズラ科) ヒカゲノカズラ科の常緑多年生シダ植物。林床や路辺に生える常緑の草本 、と植物図鑑にありますが、この3年というもの探しに探して、それでも見つかりませんでした。 ようやく出合えたのは、なんと自分の庭の片隅で、でした。青い鳥はやはり身近にいたのですね。 茎は地上を長く這い、2メートルにも達することがあるようです。 葉は短い線形で、棘があるように見えますが、実際触ってみると真綿かと思えるくらい柔らかいのです。夏、枝先から細い花茎を直立し、淡黄緑色の胞子嚢穂(ほうしのうすい)を付けるようですが、この夏見ることは叶いませんでした。 胞子は石松子(せきしようし)。漢名は石松丸。薬の衣やリンゴの人工授粉の際の花粉の増量剤として使われます。 4億年前に陸上に現れた古代植物の代表種。切り取っても長く緑色を保っているので、古くから 清浄な植物、霊力のある植物とされ、髪に飾ったり祭祀に用いられたりしました。酸性土を好みます。 「かつら」は神連(かみつら)の意で、頭にこのヒカゲノカズラを巻くと、霊性を身につけることができるとされました。 現代でも、正月の床飾りやめでたい料理の飾りとして、ヒカゲノカズラが用いられます。 ○ 古事記 [天の岩戸の伝説] より 天照大神が岩戸に隠れてしまい世の中が暗闇になった。その天岩戸の前で、太陽(天照大神)の復活を祈って天宇受売命が踊った際に、この植物を素肌にまとったと言われ ます。別名カミダスキ ----- 天手力男の神戸の掖に隠り立ちて、天宇受売(あめのうずめ)の命、天の香山の天の日影を手次にかけて、天の真拆を鬘として、天の香山の小竹葉を手草に結ひて、天の石屋戸にうけ伏せ、ふみとどろこし神懸りして、胸乳をかき出で、裳紐をほとにおし垂れき。ここに高天原動とよみて、八百万の神共に咲ひき。 ○ 枕草子第66段 [草は] より ----- しのぶ草、いとあはれなり。道芝、いとをかし。茅花もをかし。蓬、いみじうをかし。山菅。日かげ。山藍。浜木綿。葛。笹。青つづら。なづな。苗(稲の苗)。浅茅、いとをかし。---- ・ 宮人の かづらにすなる日かげ草 遠つ神代もかけて偲はむ 加藤千蔭 ・ ゆたゆたと 日陰かづらの長かづら 柱にかけて年ほぐわれは 伊藤左千夫
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あしひきの山かづらかげましばにも得がたきかげを置きや枯らさむ
作者不詳 巻十四-3573 (比喩歌。霊力のある貴重なヒカゲノカズラのように、容易には得がたい女を我が妻にしないで、枯らすようなことがあろうか) 見まく欲り 思ひしなへに縵かげ かぐはし君を相見つるかも 大伴家持 巻八 4120 あしひきの 山下ひかげかづらける 上にや更に梅をしのはむ 大伴家持 巻十九 4278 あしひきの 山縵の児今日往くと 我れに告げせば帰り来ましを 作者不詳 巻十六 3789 あしひきの 山縵の児今日のごと いづれの隈を見つつ来にけむ 作者不詳 巻十六 3790 (3人の男に慕われた縵児が、運命をはかなみ池に身を投げて死んだ。下の2首はそれを悼んで詠まれた歌) |