万葉の植物  すぎ   を詠んだ歌
                            2012.1.15 更新             

 

    
   遠くに見えるのは那須連山のうち南月山      男鹿半島、なまはげの里の真山神社の杉

     すぎ  (万葉表記  杉 椙 須疑 )       スギ (スギ科)

杉は常緑高木で日本固有種。地質時代には世界に広く生育していましたが、現在は日本だけに見られる特産の植物。
本州から屋久島まで分布する針葉樹。自生の北限は青森県で、大木になるので神社などに植えられています。
幹は直立し、樹相が細長い円錐形で美しく 、大木になると神々しいまでの風格を備えているので、上代は特に神聖な神木として信仰や、畏怖の対象でした。時に50mの高さにまで生長することもあります。屋久島には「屋久杉」と呼ばれる樹齢800年以上の原生林があることで知られます。
葉は線香の原料、建築、家具、建具などに使われるのはご存じの通り。利用価値が高いので古代から植林を行われてきました。樹皮で屋根を葺いたと記録にあります。
戦後の森林行政(植林)の結果、スギ花粉症の元凶とされるのは、杉の木にとっては大迷惑。

語源説として
1)すくすく生える木 2)直ぐな木 3)スナヲキ 4)ススキ(進み木)4)美称の幸サキから など。


 ♪ お山の杉の子  作詞:吉田テフ子  補作詞:サトウ・ハチロー 作曲:佐々木すぐる
1) 昔 昔 その昔
  椎の木林の すぐそばに
  小さなお山が あったとさ あったとさ
  丸々坊主の はげやまは
  いつでもみんなの 笑いもの
  これこれ杉の子 おきなさい
  お日さまにこにこ 声かけた 声かけた ---- 6)まで続く。

こんな歌を子供の頃歌っていました。
昭和19年作ですから、
少国民向けの戦意高揚の官製童謡だったのでしょうか。植林推進 の歌かと思って調べてみると、ほとんど軍歌でした。

ほとんどの歌で、杉は神木として詠まれています。大和の大三輪神社の神木は有名です。

 三諸の神の神杉夢にだに見むとすれども寢ねぬ夜ぞ多き          高市皇子    巻2-156

(十市皇女薨りましし時、高市皇子尊の御作歌三首、のうち1首。十市皇女は大友皇子(弘文天皇)の妃で、天武天皇と額田王との間に生まれた皇女。高市皇子は天武天皇の第1子。つまり二人は異母兄妹になります。壬申の乱において、高市皇子は天地天皇の子・大友皇子の軍を破り皇子を自殺に追いやります。さらに十市皇女を近江朝廷から戦火の中を救い出しました。のち十市皇女は俄かに亡くなりますが、父天武天皇側と内通していたのではないか、とも言われ自責の念から自殺したのではないかとの説もあります。ふたりはいつしか結ばれていたのではないかとも思われますね。人間は不思議な存在です。

いつの間も 神さびけるか香具山の 桙杉の本に苔生すまでに              鴨足人  巻3-259
  (平城京に遷都されたのち昔を偲んで。いつの間にか神さびたのだろうか。)

味酒を三輪の祝がいはふ杉手触れし罪か君に逢ひがたき     丹波大女娘子 巻4-712
(三輪の神杉に触れるようなことをしてしまったのか。君に逢うことの難しいことよ)

 み弊取り三輪の祝が斎ふ杉原薪伐りほとほとしくに手斧取らえぬ  旋頭歌 巻7-1403
(高貴な女性に手を出そうとしてひどい目に遭った。)

神なびの神寄せ板にする杉の思ひも過ぎず恋の繁きに       柿本人麻呂歌集 巻9-1773
(弓削皇子に献じられた歌。「神寄せ板」は、神が降りてくるための板だそうですが、いったいどんな板なのでしょう)

 いにしへの の植ゑけむ杉が枝に霞たなびく春は来ぬらし     柿本人麻呂歌集 巻10-1814
(植林されていたのでしょう。杉の枝に霞がたなびく。早春のおもむき。)

石上布留の神杉神さぶる恋をも我れはさらにするかも         柿本人麻呂歌集 巻11-2417
(「石上布留の神杉」のように神さぶていても恋をするのか。神さぶるとは、年齢を重ねて相応の人格を手に入れている状態か)

 神なびの 三諸の山に斎ふ杉 思ひ過ぎめや苔生すまでに       作者不詳 巻13-3228
  (忘れてしまうことが、どうしてあろうか。苔むしても。)

 石上 布留の神杉神びにし我れやさらさら恋にあひにける        作者不詳 巻10-1927 

 我が背子を大和へ遣りて待つしだす足柄山の杉の木の間か    東歌 巻10-3363
(「待つの松」ではなくて、愛しいあの方を待っているのは足柄山の杉の林の中。杉を身近なものとして詠む、神の意識の薄い歌。)

 杉の野にさ躍る雉いちしろく音にしも泣かむ隠り妻かも        大友家持 巻19-4148
(「杉の野に さ躍る雉いちしろく」は序詞。目立つほど声に出して鳴くほど慕う隠り妻なのか。)