万葉の植物  なし   を詠んだ歌
                                2012.5.8 更新

 

        


   
  なし (万葉表記  梨 )       ナシ (科) バラ科

ナシは古い時代から日本に自生し、ニホンヤマナシと呼ばれています。古代に栽培され改良を重ねてきました。
持統天皇の時代、『日本書紀』に次のような記述があります。
  「持統天皇7年3月17日、詔を下して天下に桑・紵(からむし)・梨・栗・蕪菁(あをな)等の草木を勧め植えして五穀の補充をした」。

時代が下り、江戸時代には更なる改良がなされます。
明治の中ごろ、長十郎ナシが偶然見つかり、皮が茶色の赤梨の品種として定着。
更に同時期に千葉県で発見された二十世紀は、緑梨の代表として普及しています。
関東では赤梨が、関西では緑梨が良く見られる品種でしょう。
私も那須に来て、赤梨(長十郎、豊水、幸水など)が普通に店頭に並んでいるのを見て珍しく思ったものでした。

語源は:
1. ナシの果実は、上下の部分が深くくぼんでいます。どこから見てもまん丸。「ナシ」を端(つま)がないという意味で、「つまなし」と言った。その後「つま」が落ちて単に「ナシ」というようになった。

2. ナシは、中(ナカ)が酸(ス)渋っぱいのでナスと言ったのが、「ナシ」へ転じたのだと言われる。

梨が無しに通じるところから、ありの実という表現もありますね
 

  妹(が袖( 巻来(まきき)の山の 朝露に にほふ黄葉(もみち)の 散らまく惜しも  作者不詳 巻10-2187

 黄葉(もみちば)の にほひは繁ししかれども 妻梨(の木を手折りかざさむ  作者不詳 巻10-2188

  ((妻梨の木は妻が無いのにかけてあります。妻を亡くした夫、または夫(つま)を亡くした妻の歌か)

  露霜の 寒き夕の秋風に 黄葉(もみち)にけりも妻梨の木は          作者不詳 巻10-2189  

  (上記2188への歌に応じて詠まれた歌。万葉集では黄葉と書いてもみちと読みました。古代人は黄色の葉を特に好んだということでしょうか)

 梨棗(なつめ) (きみ)に(あは)つぎ 延(は)う葛(くず)の 後(のち)も逢(あ)わんと 葵(あふひ)花咲く
                  作者不詳 巻16-3834 (後にあふひ --- 後に会いましょう)