アリッサム 

 アリッサム AlyssumSweet alyssum 
                     (Lobularia maritima アブラナ科ロブラリア属)

和名はニワナズナ。
花姿が春に咲くナズナ(ペンペングサ)に似ているので、「ニワナズナ」と呼ばれています。アンの時代にはアブラナ科アリッサム属に含まれていましたが、現在はアブラナ科ロブラリア属に分類されています。しかし昔の通り「アリッサム」と言うとこの植物を指すことが多く、園芸品種でアリッサムとして栽培されているのはロブラリア・マリティマ〔L. maritima〕の園芸品種。地中海沿岸を原産地とする耐寒性のある多年草。
属名の Lobularia は、小さな実をつけることから、ラテン語の「lobulus(小さな破片」から。種小名の maritima は「海の」という意味ですから、原産地では海岸に生えていたのでしょう。
暑さに弱いので、夏越しが難しく、園芸界では1年草として扱われます。秋蒔きにすると花期は春、寒い地方で春蒔きにすると花は秋に咲きます。(深い雪の下で、どうなるのでしょうか。本来条件が合えば多年草化するはず。)
 

  十月にもかかわらず、庭はなつかしい昔風の浮世離れのした花や灌木で、いまなお美しく色どられていた。----さんざしよもぎ、クマツヅラ(lemon verbena)、アリサム(alyssum)、ペチュニア、きんせんか、菊などが植わっていた。矢筈模様の小さな煉瓦塀が門から玄関へとつづいていた。屋敷全体がどこか遠くの田舎の村から持ってきたかのようだったが・・・・                                 『アンの愛情』 第6章 パティの家にであって

 (October though it was, the garden was still very sweet with dear, old-fashioned, unworldly flowers and shrubs -- sweet may, southern-wood, lemon verbena, alyssum, petunias, marigolds and chrysanthemums. A tiny brick wall, in herring-bone pattern, led from the gate to the front porch. The whole place might have been transplanted from some remote country village; yet there was something about it that made its nearest neighbor, the big lawn-encircled palace of a tobacco king, look exceedingly crude and showy and ill-bred by contrast. As Phil said, it was the difference between being born and being made.)

「Sweet May」を「さんざし」と訳出。訳者は、大好きな花を「さんざし」と呼びたかったのか?


 

パティの庭で十月に咲いていたところとみると、パティのお二人は、春に種を蒔いたのでしょう。
それとも多年草になったアリッサムだったのか?
背丈は十センチから二十センチで、地ぎわで別れた茎は伸びて地面を這うように生長し、白、紫、ピンクの小さなアブラナ科特有の十字架に似た花をボール状に咲かせます。
群生させると美しく、花壇の縁取りにすると映え、寄せ植えでは高さのある植物と、前部のアリッサムという取り合わせがおしゃれ。
英名のスイートアリッサムの名前の通り花は甘い香りを持ち、しみじみとした花。いかにも「昔風の庭」にふさわしい花。中国名では、「香雪球」。お似合いでしょう。花言葉は優美。そのもの。アルカリの土壌を好むことから、植えつける場合は、石灰か木灰を鋤きこんでやると後の生育が順調です。

   夕月に白く匂へるにわなづなあえかに掬ふ思ひこそあれ    (Ka)