黄色いダリア

 ダリア キク科 Dahlia

ダリアはメキシコ原産の多年草。
種子で繁殖する種類もありますが、主に塊茎で殖えます。日本へは江戸時代にオランダから渡来し、和名は天竺牡丹。開花期は初夏から秋にかけて。園芸品種は非常に多く、その数たるやもはやカウントできない程のレベルにあり、突然変異を利用して改良し、さまざまな咲き方を固定させ、現在に至ります。
たとえば派手なデコラティブ咲き、一重のアネモネ咲き、花弁が細長く突き出て巻いているカクタス咲き、手毬状のポンポン咲きなどがあり、個人の庭から、公園までさまざまな場所で栽培されています。

「古風な庭にはうつらない」ことから、当時のカナダではこのダリア、移入された現代趣味の花だったことが分かります。
ミス・ラヴェンダーは、古風な石の家の庭には、この鮮やかなダリアは浮いてしまうと考えたのでしょう。

  アンはミセス・ハリソンに黄色いダリア(yellow dahlias)を無心に来たのだった。いよいよ、結婚式が明日にせまったので、・・・・・・・・黄色のダリアはミス・ラヴェンダーの古風な庭には、うつらないうえに、ミス・ラヴェンダー自身が好きではないのでつくっていなかった。しかしどんな花にしろ、その夏は、エイブおじさんの嵐のお蔭で、アヴォンリー近在にはとぼしかった。アンとダイアナは、ふだん、ドーナッツ専用につかっている古い、クリーム色の石の壺に、黄色いダリア(yellow dahlias)をいっぱい挿して、階段のうす暗い隅に、おいたら、広間の赤い壁紙の背景でいっそう引き立つだろうと考えたのだった。
                                          『アンの青春』 第30章   石の家の結婚式

 (Anne had come over to ask Mrs. Harrison for some of her yellow dahlias. She and Diana were going through to Echo Lodge that evening to help Miss Lavendar and Charlotta the Fourth with their final preparations for the morrow's bridal. Miss Lavendar herself never had dahlias; she did not like them and they would not have suited the fine retirement of her old-fashioned garden. But flowers of any kind were rather scarce in Avonlea and the neighboring districts that summer, thanks to Uncle Abe's storm; and Anne and Diana thought that a certain old cream-colored stone jug, usually kept sacred to doughnuts, brimmed over with yellow dahlias, would be just the thing to set in a dim angle of the stone house stairs, against the dark background of red hall paper. )

 おおげさな言葉は決してうつくしくはない --- 「喧騒をきわめる」 ---- 「違憲行為」 ---- ・・・・こういう言葉は去年の秋ジミーさんにシャーロットタウンの展示会につれていってもらった時に見た、感じの悪い大きなダリアや菊を思い出させる。・・・・・どう見てもそのダリアや菊はいただけなかった。 
                                                               『エミリーはのぼる』 第1章 

("Big words are never beautiful--'incriminating'--'obstreperous'--'international'--'unconstitutional.' They make me think of those horrible big dahlias and chrysanthemums Cousin Jimmy took me to see at the exhibition in Charlottetown last fall.)
 


 
ポンポン咲き。
 スイス、グリンデルワルトのホテルの庭
 
 
  皇帝ダリア
   寒さに弱い。島で栽培可能か?

なによりさんざしを愛し、ジューンベル(つりがねそう・りんねそう)の薄いピンクの、香り高い花や、足元に茂るゴゼンタチバナの小さい白い花を愛でるモンゴメリの好みが、エミリーの言葉に表れています。

「感じが悪い」。
確かにダリアの花から、自己主張の強さと、どこかしら世間から浮いた印象を受けるのは、私だけではないようです。
最近は、皇帝ダリアと呼ばれる、まさに皇帝の名にふさわしいダリアに人気があるようです。その高さ2から3メートル。
見上げる高さに咲き誇るダリアの美しさ、秋の空に映えるピンクの色の鮮やかさ!
アンが結婚式に選ぶとしたら、黄色いダリアよりもこの皇帝ダリアのピンクを選んだかもしれませんね。
ピンクの好きなアンですから。

それにしても、エイブおじさんの落雹事件(523日)で、花の芽や苗が傷んでしまった、その夏の終わりに、ハリソン夫人の庭に黄色いダリアが咲き誇っていたのは、まさに僥倖でした。

しかし、「ハリソン夫人の庭に」。
これにはきちんとした理由があります。
そもそもダリアは原産地メキシコの気候が大好き。寒さ、暑さ、湿気が嫌い、水はけの良い土地が好き、となかなかの曲者なのです。
寒い土地では秋の終わりに塊茎を掘り上げ、温度や湿気を管理しながら冬を越させ、翌年春、気温が上がったのを見計らって定植します。
その管理は慣れないと大変で、植えつけて何ごとも無く発芽するかどうか、これは一種の賭けですね。こういった面倒なことをこなすには、それ相応の性格の持ち主でなければなりません。もう一人、アヴォンリーにはそれができる人が居ることはいます。が、リンド夫人は、この年、夫の病気にかかりきりだったはず。
ただ、ミセス・ハリソンが越してきたのが、六月で、アンがダリアの花を貰ってきたのが八月と、やや時期が合いません。
ここは、ハリソン夫人の性格から、芽の出かかった塊茎を箱の中で冬越しさせ、それを馬車に積んで引っ越しして、新しい庭に定植したと考えることにしましょうか。