やなぎらん     

 ヤナギラン Fireweed  (Epilobium angustifolium) アカバナ科アカバナ属
 
道まではみ出してきたえぞ松の若木が街道沿いにつづき、ところどころ、それがとぎれているあたりは農場の裏畑の垣になっていたり、木の切株が散らばっていて、そのあいだにきりん草が燃え立つばかりだった(aflame with fireweed and goldenrod.)。
                                                 『アンの青春』 第18章  トーリー街道の冒険

 (Along most of its extent it was lined with thick-set young spruces crowding down to the roadway, with here and there a break where the back field of a Spencervale farm came out to the fence or an expanse of stumps was aflame with fireweed and goldenrod. )
 

   スイス・サンモリッツ、セガンティーニ美術館 の庭

 

    ダンドボロギクの花がほほけて

 
村岡訳には見られませんが、「燃え立つばかり」なのは、原文にあるヤナギランとアキノキリンソウ。どちらも野原で目立つはっきりした色をしています。ヤナギランはアカバナ科アカバナ属の多年草。写真にあるように、すんなりと伸びた茎の下から、紫色を帯びたピンクの花を付けます。特徴的なのは、乾燥した日当たりの良い土地を好むこと。山火事の後に芽生え、群生することから、Fireweedの名がつけられました。森が燃えた灰で土壌が栄養化するのも関係するのでしょう。

ヤナギランの花期は長く、7月から9月初めまで。「えぞ松の若木」、「木の切株」があることで、このあたりが切り開かれた場所であり、日当たりを好む植物の天下であることが分かります。和名のヤナギラン・柳蘭は、葉の形が柳に似ていることから。本州のやや高地から北海道にかけて群生しているのを見かけます。
緑の中に濃いピンクの花が美しく、山登りの目を楽しませてくれます。

         

さて、この部分に別訳も。松本訳『アンの青春』に「切株の残る広い空地にダンドボロギクやキリン草が燃えたつように咲いているのがかいま見えた。」とあります。

ダンドボロギクはキク科タケダグサ属の植物。
北アメリカ原産の帰化植物。花期は夏、目立たない薄ピンクの花を上向きに付けます。耕作放棄地は、法面などに生育、山火事の後に芽生えることから、この植物も「Fireweed」と呼ばれます。

しかし、「燃え立つ」という表現にはほど遠く、この地味な色合いの植物が、馬車に乗っているアンとダイアナの目に留まったとは考えにくいのです。

        ヤナギラン