万葉の植物  ひえ   を詠んだ歌
                             2012.9.16 更新            

 
  
     ひえ (万葉表記   比要 稗 )    イヌビエ  (イネ科)

今回、ヒエの写真を撮るべく、近隣の田を探して回りましたが、お百姓さんたちが丹精込めて育てている田んぼです。なかなか見つけられません。
ようやく道端で出合ったのが上の写真。ヒエ=田んぼという認識が邪魔をしました。
日本全土に分布するイネ科の一年草。食用と雑草の2種類あります。食用のヒエはイヌビエから改良されたもので、草丈1.5m前後。煮ると嵩が増えることから、イネの伝播以前にアワと共に栽培され、古くから救荒植物として作られていました。5穀の一つ。
精白して団子、飴、ヒエ飯にと利用されましたが、現在その姿を見ることはあまりありません。ヒエ類は、水田、荒地、路傍、河原、畑などに成育しその場所に適応ています。ヒエ、ノビエ、イヌビエなどの種類があり、写真はイヌビエまたはノビエ。
さらにイヌビエには
タイヌビエ、ケイヌビエ、ヒメイヌビエなど変種があり分類上の混乱も見られます。
ヒエ類の弁別は難しく、ここでは広義のヒエの代表としてイヌビエを挙げました。 雑草のヒエは、食用のヒエに比べ背が低いのが特徴。しかし水田に生えるものはイネよりも草丈が高く、陽性植物としてはびこっています。
花期は8月。稲の出穂に先立って開花し実を稔らせ、イネが刈り取られる前に自らの種子を散布するという作戦に出ています。
おまけにイネに姿形が良く似ていて、写真のような穂が出る前には見つけにくく除草しにくいのです。
稲作に見事に適応した水田雑草植物と言えましょう。


物に寄せて思ひを陳ぶ歌 2首 

打ちし田に稗は数多にありといへど択えし我ぞ夜ひとり宿る    人麻呂歌集 11-2479

水を多み上田に種蒔き稗を多み選らえし業ぞ我がひとり寝る   作者不詳 巻12-2999

 (2首とも、沢山あるヒエの中から選り除かれたヒエ=自分を自嘲するもの。寂しく一人寝をするわびしさを詠います。)