万葉の植物  よもぎ を詠んだ歌
                                       2011.1.4 更新

 
    
    よもぎ  (万葉表記   余母疑  蓬)    ヨモギ (キク科)

地下茎で増える多年草。良い香りのする新芽を草餅に使 うので、モチグサとも呼ばれています。驚いたことに蛋白質が多く、各種のビタミンを含んでいる栄養値の高い植物なのです。
乾燥させたものはモグサとしてお灸に使われるほか、薬用に用いられます。効用は腹痛、止血など。
花粉は花粉症のアレルゲン。右写真の右下が目立たない花を咲かせた状態で、頭花は少数の筒状花のみ。
ヨモギはセイタカアワダチソウと同じく、他の植物の侵入を許さない物質「アレロパシー」を分泌させます。
自分の種子も発芽が抑制されますが、地下茎で繁殖するので,問題はないのでしょう。
「肉を切らせて骨を切る」とはこのことか。
ヨモギは邪気を除ける呪力のある植物。
端午の節句にあやめ(菖蒲)とよもぎを髪に飾ったり軒に挿したりする風習がありました。

『源氏物語』の「蓬生」の巻に、光源氏が須磨流謫から京に戻った後、末摘花を訪れるシーンが描かれています。
庭にぼうぼうと蓬が生え繁っていたのでしょうね。(現在、冷凍庫の中に春摘んだヨモギがいっぱい!)
 

集中1首のみ。長歌ですが、全文を紹介します。

  大君の 任きのまにまに 取り持ちて 仕ふる国の 年の内の 事かたね持ち 玉桙の 道に出で立ち 岩根踏み 山越え 野行き 都辺に参ゐし我が背を あらたまの年行き返り 月重ね 見ぬ日さまねみ 恋ふるそら 安くしあらねば 霍公鳥、来鳴く五月のあやめぐさ 蓬かづらき 酒みづき 遊びなぐれど 射水川 雪消溢りて 行く水の いや増しにのみ 鶴が鳴く 呉江の菅の ねもころに思ひ結ぼれ 嘆きつつ 我が待つ 君が事終り帰り罷りて 夏の野の さ百合の花の花笑みに にふぶに笑みて逢はしたる 今日を始めて鏡なす かくし常見む 面変りせず
                          大伴家持  巻18-4116                          

大友家持は大伴旅人の子。46年(天平18年)7月に越中守に任ぜられ、751年(天平勝宝3年)まで在任。
部下の久米朝臣廣縄(くめのあそんひろのり)が748年(天平20年)、中央に越中国の年次報告に旅立ちました。翌年の5月27日に無事帰任したことを祝い、大伴家持が酒宴を開いて、この歌を詠んでいます。
家持20代の歌。若いですね。流れるように言葉が続き、相手をねぎらいつつ任務を果たし無事に帰任した喜びが表現されています。
理系頭の相棒だと「帰ってきたか、ご苦労さん」の2フレーズで終えるところを、歌人家持は大きく手を広げ相手を懐に包み込んでいます。心のこもった言葉が相手にとってのご馳走だということを知っているのでしょう。