万葉の植物 つみ  を詠んだ歌
                            2011.12.10 更新             

 
  
   つみ (万葉表記  柘 )      クワ  ヤマグワ (クワ科)

日本に自生する野桑(ノグワ)またはヤマグワ(山桑)。クワ科クワ属の落葉高木。雌雄異株。花期は4月〜5月。
目立たぬ単生花を穂状に付け、実は初夏に赤から黒く熟して 食用になります。甘く美味で香りが高いものの、食した後は口の中が紫色に染まってしまうので、つまみ食いしたことが一目瞭然。
クワは蚕の食う葉の意味。ツミも蚕がこの葉を食べることに由来します。葉を蚕の飼料にするほか、皮は和紙の原料や織物に、実と根を桑酒に、用材としては建築、家具、細工物などに使われます。
栽培される桑は、根本から伸びた若枝を刈り取る刈り桑と、高木にして葉を摘む高桑とがあります。。写真左は刈り桑、右は高桑。
花が咲き、実が実るのは刈り取られない高桑、という説明をあちこちで見かけますが、左写真の桑の背の高さは約50セ ンチ。これでも立派に花を咲かせ実を実らせました。

クワは「蚕の食う葉」の意味。皮は和紙の原料で織物にも利用され、茎や根や樹皮は漢方薬の原料として利用されます。
葉はもちろんのこと蚕の食料で、絹の材料です。
蚕を育て、繭から絹糸を紡ぎ布を織るのは渡来技術。その変化に神秘を感じ、邪気をはらう霊力のある植物とみなされました。

『万葉集」には、クワ・桑の名前で数多く詠まれています。
ではツミとクワはどう違うのか? ツミはクワの古名とされ、葉を摘むことからツミとされたとありますが、当時の文化人が好んで使ったようですね。クワ(古くはクハ)は、『日本書紀』にもその名前が記され、古代から養蚕が行われていたことを示します。

現在栽培されているのは、中国原産の真桑(マグワ・トウグワ)。写真のヤマグワよりも葉が大きく丸みを帯びて光沢があり、実もヤマグワに比較すると3倍くらい大きいので、野原で存在感があります。(と言っても食すのはごく一部の人たち。もちろんYamaも散歩の途中、手を伸ばします。)
 
『万葉集』の「つみ」は、柘枝(つみのえ)伝説と言われる仙女物語について詠まれています。
桑は古く霊力のある木と考えられていました。
    
     吉野川に梁をかけ、鮎を捕って暮らしを立てていた味稲(うましね)という若者が、流れてきた
     つみの枝が梁にかかったのを拾い取ってみると、若い美女と化した。若者はこの美女と夫婦の契りを結び、
     老いも苦しみも知らないで暮らしていた。ある時美女は常世の国に飛び去ってしまったという神婚譚。

この神婚譚 --- 
柘の枝の仙女を詠んだ歌が3首。
 1  あられ降り吉志美が岳をさがしみと草取りかなわ妹が手を取る  作者不詳 巻3-385
(妻と二人、吉志美が岳に登ったが、その道はたいそう険しく、転げ落ちそうになった。生えている草に取りすがろうとしたら、つかまりそこなって、妻の手を取ってしまった。--- これはいったい何を言いたいのか?)

2  この夕 柘のさ枝の流れ来ば  梁は打たずて取らずかもあらむ    作者不詳 巻3-386
(この夕暮れ時、柘の枝が流れてきたら、梁をかけていないので、枝を拾えず伝説の美女に会うことが出来ないだろう。神仙女に憧れているのでしょうね。)

3  いにしへに  梁打つ人のなかりせば ここにもあらまし柘の枝はも   若宮年魚麻呂  巻3-387
(昔、この場所に梁を掛ける人がいなかったならば、あの美しい仙女に化したと言われる柘の枝が、まだここにあるのだろうな。これもやはり、仙女に憧れる思いを詠んでいます。吉野川を目にして憧れる思いが深まっていく--。)

 大夫の 出で立ち向ふ故郷の神なび山に.......(長歌)            古歌集  巻10-1937
(つみの小枝に、松の梢に。山彦が響くのか、ホトトギスが妻を呼ぶように鳴いている夜---)

 なかなかに 人とあらずは桑子にも ならましものを玉の緒ばかり    作者不詳   巻12-3086
(桑子とは蚕のこと。人間よりはいっそ蚕になりたい---。) 

 筑波嶺の 新桑繭の衣はあれど 君が御衣しあやに着欲しも      東歌  巻14-3350 (常陸国)

 たらちねの 母が園なる 桑すらに 願へば衣に 着すとふものを      作者不詳 巻7-1357

       「赤とんぼ」   三木露風作詞 山田耕筰作曲

        夕焼小焼の 赤とんぼ
        おわれて見たのは いつの日か

        山の畑の 桑の実を
        小籠に摘んだは まぼろしか 

        十五でねえやは 嫁に行き
        お里の 便りも
        絶え果てた

        夕焼け小焼けの 赤とんぼ
        とまっているよ
        竿の先