万葉の植物  すみれ  を詠んだ歌
                              2011.4.26 更新           

 

        
         ツボスミレ(ニョイスミレ)                スミレ

   すみれ  (万葉表記   須美礼 菫)        スミレ (スミレ科)

スミレの語源は「墨入れ」からとされ、大工道具の墨壷↓に見立てたと言われています。
花がつぼんだ形から「壷」と表現したのか、身近にある庭すなわち「坪」からきているのか。よく分かりません。
そもそも、スミレはスミレの仲間にただ一種ある「スミレ」なのか、あるいはスミレの総称なのか。

日本には200種あまりのスミレがあり、その見分け方には、
・葉の形は
・地上茎があるか
・花弁の色は
・雌しべの上部の形は
・托葉の形は
・唇弁の距の形は
・根や地下茎の状態は などなど。
果てしなく問題は続くのでした。
異種あり変異あり。弁別には「絶対弁別感」(個人的造語)が必要なようで、この状態を人呼んで「スミレ地獄」と。

 山路来て なにやらゆかし 菫草   芭蕉  

 菫程な 小さき人に 生まれたし   漱石
  (俗にまみれず、ひっそり静かに生きる菫 )

しかし、菫の繁殖作戦はしたたか。 閉鎖花を付ける、蟻の好むエライオソームを種に付けて運んでもらう。
ひっそりとしたたか、そして一途に。増える、殖やす。
4月26日現在、庭に咲くのは、「フモトスミレ」「コスミレ」「タチツボスミレ」「マルバスミレ」「ビオラ・ソロリア」。
悲しいことに同定できるのはこの程度なのです。 スミレ地獄を彷徨う春の午後です。


 
春の野に すみれ摘みにと来し我れぞ 野をなつかしみ一夜寝にける       山部赤人 巻8-1424
   (赤人の菫、家持の桃、人麻呂の浜木綿。自然の中に在る詩人赤人は、「官」に対する「野」を懐かしんだか。
   野の息吹に魅せられて、自然の中でやすらったのか。あるいは、この野とは、鄙に在る娘子のことか。)

 山吹の 咲きたる野辺のつほすみれ この春の雨に盛りなりけり          高田女王 巻8-1444
(ツボスミレは花期が遅く、湿気の多い場所に咲きます。川辺に山吹の花が咲くのは春も長けてから)

 茅花抜く 浅茅が原のつほすみれ 今盛りなり我が恋ふらくは        大伴田村家大嬢 巻8-1449
   (ツバナを抜いて遊ぶ春も遅いころ、ツボスミレは田の畔などにびっしりと花を咲かせます。俯いた花に紫色の花びらが一枚。)

 おおきみの 命かしこみあしひきの 山野さはらず....... (長歌)          大伴池主 巻17- 3973                                             

                                                 墨壷