念には念を入れよ --- 閉鎖花とは

植物は繁殖するために、さまざまな方式を採ります。
このページでは一番身近な「花を咲かせ果実(種)を実らせ繁殖する」方法のうち、やや特殊な「閉鎖花」を咲かせる花々を取り上げました。

まず、私たちが普通に見る花の姿を「開放花」と呼びます。

開放花の特徴は:
受粉媒介者の行動を借りて受粉し、遺伝子を交換することで多様化を図る。条件によっては受粉が不確実になる危険性がある。花を咲かせるのに多大なエネルギーを費やす。より広範な場所に種子(遺伝子の乗り物)を移動させる機会がある。
 --- 環境の変化に自在に適応し、繁殖するための知恵を働かせている。

閉鎖花とは:
花冠の一部または全体が開かず、同一個体で自家受粉する現象。自家受粉することで確実に次世代の種を作ることができ、そのために費やすエネルギーも少なくて済み効率的。遺伝子の多様性は望めないが、確実で競争優位性がある。
しかし、これには落とし穴も。弱体遺伝子が引き継がれる危険性がありませんか。個体のクローンを作るということは、環境変化に適応できれば良し、できない場合は淘汰される危険性もあるわけですね。

日本では、閉鎖花は11科14属19種に見られるということです(牧野富太郎博士による)。
那須で身近に見られる9種について、見ていただきましょう。(2011年2月現在)

ヒトも動物も植物も、なぜ生きているのか、なぜ繁殖をめざすのか。そしてなぜ死ぬのか。
それは、命を次の世代に伝えるため。
閉鎖花の営みに注目すると、「命を引き継ぐための目立たぬプログラム」が、粛々と実行されていることに驚きます。

2011.4.26 センボンヤリの開放花を追加しました。

                                            2011.2.15 9種類

              左が 開放花                       右は閉鎖花
   
  コスミレ (スミレ科 スミレ属)  小菫

春の花と言えばこのスミレ。大工さんが使う墨入れ壷に形が似ていることから、墨入れ→スミレの名前に。3月から5月にかけて開放花を咲かせた後、夏からなんと秋の終りまで、閉鎖花を付けては種を飛ばし続けひたすら繁殖に励みます。
種には「エライオソーム」と呼ばれる、蟻が好む物質が付いており、蟻の働きを借りてさらに生育地から離れた場所での芽生えを目指しています。(アーンツプラントと言うらしい)
時期をずらし開放花→閉鎖花を咲かせ種を飛ばし→種を蟻に運んでもらう。何段階もの手順を用意しているスミレ。
まことにその生き方たるや、天晴れ!と言うしかありません。

写真は、庭に咲くコスミレ。早咲きです。 手前と奥はワイルド・ストロベリーの葉。
種はおよそ5mも飛ぶのです。スミレにとってはまるで砲丸投げでしょうね。
 
   
 ミゾソバ (タデ科 イヌタデ属) 溝蕎麦

田の畦、溝、川原などに群生し、高さは30〜1mくらい。花期は早秋8月〜10月。湿り気を好み茎にはとげ状の毛が下向きに生えていて、うっかり触ると痛いのです。見かけによらず強気な花ですね。誰に対して敵意を持っているのか?
下向きにとげが生えている=下から登ってくる蟻のような受粉媒介可能者をシャットアウトしているのかもしれません。花に群がるのは「ハエ」と「蜂」がほとんどです。

花色は写真の紅色からほとんど白まで変化が大きく、特に那須では白い個体をあちこちで見かけます。
葉が牛の顔に似ていることから、ウシノヒタイ(牛の額)の別名も。花が食用の蕎麦に似ているからミゾソバの名前を持ちますが、食べられません。

右の閉鎖花は、地中から掘り出したもの。
小さいつぼみ状の閉鎖花を開いてみると、丸い種が一つだけ入っています。
 
   
 フタリシズカ (センリョウ科 チャラン属) 二人静

山地の雑木林の林床などに自生する宿根草。高さ30〜50cm前後。同族のヒトリシズカよりもやや遅く、ここ那須ではようやく中春の5月に花期を迎えます。
地下部から茎を伸ばし、密に互生した4枚の葉の間から1本〜数本、5cmほどの花穂を立て、縦に並んだ白く丸い花を咲かせます。白い花の中には、雄しべ3本に囲まれた雌しべが、うずくまるように隠れています。

萌えはじめたコナラやクヌギの下に群生し、花穂が揺れて木漏れ日に光るさまを目にすると、春の喜びに心が満ちる思いがするのです。
フタリシズカの名前は、静御前の亡霊が舞う、能の「二人静」に由来します。
 

  
 タツナミソウ (シソ科 タツナミソウ属) 立浪草

茎に白い毛が密に生えていて葉は対生。道端や野原の日当たりの良い場所に生育する多年草。高さは20〜30cmくらい。
花期は5月から6月。花は唇形。下唇にあたる部分に班紋があります。
花が穂状にたくさん付く様子を波頭に見立てて、立浪草と名づけられました。招き猫にも見えなくもありません。

識別が難しいタツナミソウ属の見分け方は、茎に生える短い毛、葉の腺点の違いなど。
左は開放花。綺麗な紫色の花が咲き乱れる初夏の庭が自慢です。

右の閉鎖花を見てください。閉鎖花も受粉した果実(下部)も、種袋が2枚合わさりスプーンを上向きにしたような形をしています。中の種が熟してくると上に被さっている種袋の蓋の部分は落ちて、中の種をばらまきやすくしています。

植物はいったいどこで考えているのでしょうか。
思考し伝達する仕組みがどこに備わっているのか。
知れば知るほど、その不思議な世界に魅かれます。
 

   
  センボンヤリ (キク科 センボンヤリ属) 千本槍

日当たりを好み、林縁や野原に咲く高さ10〜30cmくらいの種から増える宿根草。
春に開放花(左)、秋になるとロゼット状の葉の間から、長い花柄を伸ばし尖った閉鎖花(右)を咲かせます。この花姿はまるで槍。春と秋とではまったくイメージの違う閉鎖花を咲かせる、どこにでもあるけれど個性的な植物。
閉鎖花は、褐色の冠毛を持つそう果となり、タンポポのように風に乗って種をまき散らすのです。
春の葉は、裏面が紫色なので、別名ムラサキタンポポ。

この槍が並ぶ様子は、さだめし田舎の大名行列ですね。
閉鎖花のバックにある大きい葉は、「シラユキゲシ」の葉。
 

    
 ツリフネソウ (ツリフネソウ科 ツリフネソウ属) 吊船草

名は体を表す。名前の通り、帆掛け舟を吊り下げたようでしょう。もっともこれを金魚が揺れていると表現した人もいますが。
左がツリフネソウ、右がキツリフネ(黄吊船)。違いは、赤い花のほうが夏の終わりと花期が早く、距がクルクルと巻いていること。キツリフネの距と較べてみてください。

山地の湿り気の多い場所に生え、高さは1m近くまで伸びることも。
ツリフネソウの学名 Impatiens とは我慢できないの意。種を触るとパチンと弾き飛んでしまいます。右のキツリフネは noli-tongere 私に触らないでの意味。それもそうでした、この両種はホウセンカの仲間なのです。

両種とも、開放花と閉鎖花を同時に咲かせますが、ツリフネソウ(赤)のほうは、閉鎖花の割合が少なく、キツリフネ(黄)は閉鎖花を沢山付けます、開放花の数よりも多いくらいですね。
写真で見にくいかもしれませんが、開放花、その後の種の状態、閉鎖花と並んでぶら下がっている様子を見てください。

群生している場所を選んで出かけ、種を弾き飛ばすのは夏の終わりの朝の楽しみ。
ふらふら。ふらふらり。
なにも考えていないように見えても、しっかり来年の夏のへの心積もりをしています。
 

   
 ホトケノザ (シソ科 オドリコソウ属)  仏の座 

対生する葉の上に紅紫色の唇形の花を付けている様子が、仏座の蓮座におわす仏様に似ていることから、ホトケノザの名前を付けられました。
春の七草のひとつ「ほとけのざ」は写真の植物ではなくて、水田などに生える「コオニタビラコ」のこと。(キク科ヤブタビラコ属)

シソ科の特徴は、茎の断面が四角形であること。このオドリコソウも、やはり触るとコリコリする四角の茎を持ちます。
春早くから、陽春の5月まで、田んぼの畦や野原に咲き乱れ、風に身を任せているさまはいかにものんびり長閑ですが。
じつはこの裏にはホトケノザならではの努力が隠されています。

開放花は見ての通りのいかにも花ですが、黒い←で示してある赤く小さい丸い玉が、実は閉鎖花。
ホトケノザは気温が上って枯れる前に、開放花と閉鎖花を同時に咲かせるという戦略を採りました。

後ろにあるのは、ナズナ(アブラナ科 ナズナ属)、別名ペンペングサ、果実の形が三味線のバチにそっくりですね。

  
                                    秋になったら地面を掘ってみます。
 ヤブマメ ( マメ科 ヤブマメ属) 藪豆

篠竹あり、電柱あり、コナラのひこばえあり。絡みつく相手を選びません。蔓を絡ませて生長し続け秋の初めには2mの高さにまで 背を伸ばし、9月〜10月にかけて紫と白のグラデーションが美しい花を咲かせます。

このヤブマメは、上記のホトケノザを上回る戦略家。写真の開放花のほか、蔓の途中に閉鎖花も咲かせているのです。
茎や葉には毛が密生していて、「おのれを守るぞ」という意思を感じます。野生的ですね。地下茎を掘ってみると、地中にも閉鎖花を付けているのが見つかるようです。(この秋の宿題)

つまり、開放花+閉鎖花+地中の閉鎖花の3通りの繁殖方法を採っています。そうまでして増えたいのは何故?

開放花と、茎につける閉鎖花に実る豆果は、平べったい。反面地中には丸くて白い果実が実ります。
 

 
          会津駒止湿原にて                         

 ヒメハギ (ヒメハギ科 ヒメハギ属) 姫萩

常緑の多年草。花の色も印象もマメ科の萩に似ていることから、ヒメハギ。
日当たりの良い、やや乾いた場所に生えます。

ヒメハギ科と独自の科を立てられているように、この植物は独特の花の構造を持っています。
髭状付属体(先っぽのふわふわ)に受粉を媒介する虫などが乗ると、内部から雌しべと雄しべが現れてくるのです
花期には写真のような花を咲かせますが、開花の適期を過ぎると、緑色で両手を合わせたような閉鎖花を咲かせ、そのまま結実します。中には毛の生えた黒い種が!

この花を見つけたのは、6月下旬。梅雨が本格的になるころでした。雨の中受粉できるように閉鎖花(自家受粉)をつけ、虫の目を惹くための無駄なエネルギーを使わないように、緑色の花色で済ませる。
なんという戦略家であり節約家なのでしょうか。
 

閉鎖花を咲かせるのは他に:
 サワトウガラシ  ノミノフスマ  オニバス  キキョウソウ  メドハギ  ムジナモ  アザミ  ミヤマカタバミ  など。
 今年のテーマが見つかりました。この春からはカメラをぶら下げて、探索に励みます。 2011.2.15 記

 
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