万葉の植物  せり    を詠んだ歌
                                2011.5.15 更新         

 
  
   せり (万葉表記  世理 芹子)         セリ  (セリ科)

春の七草のひとつ。(セリ ナズナ ゴギョウ ハコベラ ホトケノザ スズナ スズシロ)
湿地や水田、溝などに群生する多年草。田植えの前、冬の間のロゼット状態から、ようやく伸びてきた新芽を摘んでお浸しや和え物にすると美味。
しゃきしゃきとした歯ざわりと、香り高い味を楽しめます。
密生している様子が「競り合っている」ように見えることから「セリ・競り」と名づけられたとありますが、ああそうですね。そんな感じで溝に群生しています。
これが清水に生えていると、クレソンになるでしょう。西洋芹 = クレソンです。
食用の時期は3月から5月。花が咲くのはもっと後で、夏の初めのころ。
セリ科の植物らしく複散形花序を出し、白い5弁の小さな小さな花を開きます。野原のレース・フラワーとはこのこと。
セリ科の仲間には、ニンジン セロリ セリ パセリ ミツバなど。
活性酸素を消去するカロチノイドや解毒作用のあるテルペンが豊富に含まれています。
おそらく、疲労回復や二日酔いに効果があるでしょうね。

 
『万葉集』に詠まれた「 セリ」は二首

 あかねさす 昼は田賜びてぬばたまの 夜のいとまに摘める芹これ    葛城王   巻20−4455
(「田賜びて」 = 班田使としての仕事をして。 多忙な任務をこなし、夜になってようやく摘んだ芹です。どうぞ。
   この葛城王とは後に臣籍に降りた橘諸兄のこと。)

 ますらをと 思へるものを 刀佩きて 可爾波の田居に芹ぞ摘みける    薜妙観命婦   巻20−4456

 (立派な太刀を履いたあなた様が、泥田にはいり私にために芹を摘んでくださったのですね。
    ますらをと、背を屈めて芹を摘む不恰好な姿の対比が面白い。)
   
単に芹を摘んだ、というのではなくて「春の野遊び・春菜摘み」の習慣を歌ったのでしょう。
春の霊気を体に取り込む行事は、さらに若菜摘みとして広がりをみせます。
   
 
春の野に すみれ摘みにと来し我れぞ 野をなつかしみ一夜寝にける       山部赤人 巻8-1424