万葉の植物  なのりそ  を詠んだ歌
                                2012.12.21 更新         

 

      

   なのりそ (万葉表記 名告藻 勿告 勿謂藻 莫告藻 名乗藻 名乗曾 )
 
   ほんだわら   ( ホンダワラ科)

宮城県から南九州に掛けての日本海側の、沿岸数メートルの場所に生える褐藻類。長く3メートル伸びることも。新年の飾り物に使われるほか、食用に。焼いてカリを取り肥料としても利用しました。「なのりそ」がなぜ「ほんだわら」なのか。これにはこういうわけがあります。
『日本書紀』 允恭天皇の条に。(巻13)

天皇には衣通姫(そとおりひめ)という美しい妃があった。その美しさは衣服を通して輝くほどであったという。この姫は天皇の皇后の妹。姫は姉皇后の嫉妬を恐れて宮から遠く離れた河内の茅渟に住むことにした。
天皇は姫恋しさにしばしばその地へ行幸する。皇后は「たびたびの行幸は民の苦しみになる。」との理由で戒める。よって天皇の足は遠のく。
行幸が絶えて1年後、茅渟の宮に御幸すると、姫は

   
 とこしへに君に会へもやいさなとり海の浜藻の寄る時どきを  こう詠みました。

天皇は、この歌を聞き「この歌を他人、特に皇后に聞かせては成らぬ。」と命じます。
このことから、人々は浜藻のことを「奈能利曾毛・なのりそも・な告りそ藻」と呼ぶようになったと。


  みさご居る磯廻に生ふるなのりその名は告らしてよ親は知るとも   柿本人麻呂 巻3-362

  (ミサゴの飛ぶ磯に生えているなのりそではないが、名前を明かしてください。たとえあなたの親に知れようとも。名前を明かすことは求婚を受け入れること。名前には魂が宿るとされていました。)

 みさご居る荒磯に生ふるなのりそのよし名は告らせ親は知るとも    柿本人麻呂 巻3-363

  (上の362番と同じ意味。)

 みさご居る荒礒に生ふるなのりそのよし名は告らじ親は知るとも    作者不詳 巻12-3077

(この歌は上記2首と詠み方は良く似ているものの、内容は違うのです。なのりそのようにあなたの名前を明かしたりしません。たとえあなたの親は知っていようとも。)

 住吉の敷津の浦のなのりその名は告りてしを逢はなくも怪し  作者不詳   巻12-3076

 志賀の海人の礒に刈り干すなのりその名は告りてしを何か逢ひかたき 作者不詳 巻12-3177

 海の底沖つ玉のなのりその花妹と我れとここにしありとなのりその花  旋頭歌 巻7-1290