万葉の植物  も  を詠んだ歌
                                2012.12.12 更新         


 

      

   も  (万葉表記 茂 母)     水中の草の総称 

日本全国に分布する多年草。地下茎が伸び群生します。
海藻
は神饌として、あるいは朝廷への献上品としても利用されました。人麻呂の長歌から、海藻も含むことがわかります。万葉集』では、単なる植物としてではなく、その姿からも心の深い所に静かに潜む思いを象徴するものと表現されています。
「藻」の歌67首のうち玉藻という言葉が使われているのが57首。ついで沖つ藻の8首、いつ藻、川藻、辺つ藻、なびき藻、菅藻などを使い、さらに玉藻刈る、玉藻なす、玉藻なびく、玉藻寄ると表現されています。
命の象徴、官能の表象として、あるいは死への憧れにも似た衝動がこの「藻」という言葉に込められているような気がします。


  石見の海角の浦廻を浦なしと人こそ見らめ ・・・・ か青なる玉藻沖つ藻 ・・・ 浪のむたか寄りかく寄る玉藻なす寄り寝し妹を・・・ (長歌)  柿本人麻呂 巻2-131

  (流れに身をまかせる玉藻は共寝に喩えられます。あるいは女性の髪の美しさにも。人麻呂が石見の国から都へ登ってくるときに詠んだ歌。対句、対語を重ねて情感を高め、最後に思いを強く押し出します。リズムとうねりに圧倒されますね。全身で愛する妻を歌う人麻呂。)

八雲さす出雲の子らが黒髪は吉野の川の沖になづさふ   柿本人麻呂 巻3-430

  (入水した乙女を悼んだ歌。黒髪が川の流れになづさふ --- 美しい表現です。)

 軽の池の浦廻行き廻る鴨すらに玉藻の上にひとり寝なくに  紀皇女 巻3-390 譬喩歌

  (軽の池の鴨さえ恋しい人と共寝しているのに、ああ私はひとり・・・。玉藻はつがいの鳥がその上で寝る藻を褒めた言葉。紀皇女は天武天皇の皇女。異母兄弟の弓削皇子に宛てた歌か。)

 川の上のいつ藻の花のいつもいつも来ませ我が背子時じけめやも  吹芡刀自 巻4-491

  (「川の上・かはのへ」はここでは水面のこと。いつ藻とは尊い藻。いつもいつも〜して欲しい。「時じけめやも」・・・悪い時期。いつが悪いということはありません、を強調しています。)

 海の底奥を深めて生ふる藻のもとも今こそ恋はすべなき  作者不詳 巻11-2781