万葉の植物 にれ  を詠んだ歌
                                2012.12.25 更新         

 

        まだ見ていないなんて---。なんたることか。


   
にれ   (万葉表記 楡 爾礼 春楡)    ハルニレ (ニレ科)  アキニレ (ニレ科)

共に日本全土に分布する落葉高木。ハルニレは北の地方に多く、高さは30mになることも。樹皮は灰褐色で割れ目が見られます。花期は春で黄緑色の小さい花を、葉の出る前に咲かせます。丈夫で高木に生育することから、公園樹や建築材に利用されます。
アキニレは東海以西に分布し、ハルニレと違って、初秋に淡い黄色く小さい花を咲かせます。
皮を調味料として使う方法は、下の歌に詳しくありますが、古代の味を試してみたいものです。

乞食者<詠>二首)
 おしてるや 難波の小江に 廬作り 隠りて居る 葦蟹を 大君召すと 何せむに 我を召すらめや 明けく 我が知ることを 歌人と 我を召すらめや 笛吹きと 我を召すらめや 琴弾きと 我を召すらめや かもかくも 命受けむと 今日今日と 飛鳥に至り 置くとも 置勿に至り つかねども 都久野に至り 東の 中の御門ゆ 参入り来て 命受くれば 馬にこそ ふもだしかくもの 牛にこそ 鼻縄はくれ あしひきの この片山の もむ楡を 五百枝剥き垂り 天照るや 日の異に干し さひづるや 韓臼に搗き 庭に立つ 手臼に搗き おしてるや 難波の小江の 初垂りを からく垂り来て 陶人の 作れる瓶を 今日行きて 明日取り持ち来 我が目らに 塩塗りたまひ きたひはやすも きたひはやすも
                                      巻16-3886

(「乞食者の詠」2首のうちの1首。「いちひ」についてもう1首に詠まれています。この歌には「蟹の為に痛を述べて作れり」という左注があるように、蟹が大王の為に、蟹の塩辛をどうやって作るかを縷々述べた語り物風の歌です。神が教えて下さった通りに品物を作る「生産叙事」の様式で詠ったもの。

ニレの樹皮を剥いで内皮を取り、陽に干して臼で搗き粉にする。塩を加えて瓶の中に蟹と一緒に入れて蟹の塩辛にする。
これがその方法。難波で作られたことから、このニレはアキニレか。

歌にある「もむニレ」とは揉んだニレ。羹(あつもの・スープ)にしたという記述も『延喜式』にあるようです。
いったい、どんな味なのでしょう。不思議極まりない、味覚をそそられる記述でした。)