万葉の植物 いちひ を詠んだ歌
                              2012.12.23 更新           

 

       
      明日香村・甘樫の丘にて 

   いちひ (万葉表記  伊智比)    イチイガシ (ブナ科)

関東以西の暖地に生える常緑高木。花は5月で新梢の下部から黄褐色の雄花を付けた尾状花穂を垂らします。果実はその秋に稔り、食用。
材は堅くて建築に使われ、船の櫓、槍の柄として使われました。
実用性はあるものの、地味な樹木なので話題性に欠け、『万葉集』にも1首のみ掲載されるのみ。

和名は最火(いちひ)で薪にしたことから。

 いとこ 汝背の君 居り居りて 物にい行くとは 韓国の 虎といふ神を 生け捕りに 八つ捕り持ち来 その皮を 畳に刺し 八重畳 平群の山に 四月と 五月との間に 薬猟 仕ふる時に あしひきの この片山に 二つ立つ 櫟が本に 梓弓 八つ手挟み ひめ鏑 八つ手挟み 獣待つと 我が居る時に さを鹿の 来立ち嘆かく たちまちに 我れは死ぬべし 大君に 我れは仕へむ 我が角は み笠のはやし 我が耳は み墨の坩 我が目らは ますみの鏡 我が爪は み弓の弓弭 我が毛らは み筆はやし 我が皮は み箱の皮に 我が肉は み膾はやし 我が肝も み膾はやし 我がみげは み塩のはやし 老いたる奴 我が身一つに 七重花咲く 八重花咲くと 申しはやさね 申しはやさね  
  長歌 題詞に「乞食者詠・ほがひびと」  巻16-3885

  (乞食者とは、ほがいごと(祝い言)を唱える者。家の戸口に立ち、その家に良いことがあるように寿詞を唱え食物を乞いながら歩く人。皇室を尊び奉仕する精神を詠いながらも、読めば読むほど、民衆の風刺の心や圧制への怨嗟の声を感じます。あるいは人が驕り高ぶることへの警告とも取れましょうか。)