万葉の植物  ねぶ   を詠んだ歌
                            2011.7.27 更新

 
  
                 マメ科の植物らしい果実(豆果)
   ねぶ (万葉表記   合歓木)       ネム (マメ科)

マメ科の落葉低木。日当たりの良い水辺などを好み、10メートル くらいまで生長します。梅雨の終わりから初秋にかけ、糸状の紅色のおしべが放射状に付き、花全体の形は傘状。 刷毛のように見えませんか。
よく似た花に同じマメ科のオジギソウがあります。
オジギソウは触ると瞬時に葉を閉じますが、ネムノキは夕方になるとゆっくり自分で葉を閉じるのです。(葉の睡眠運動)
夕方になると葉が閉じるので、まるで木自身が眠っているように感じられることから、
  眠る木 → 寝むの木 → ネムノキ。
合歓という 言葉は恋い、慕いあう男女の共寝の喜びという意味を含んでいます。

      象潟や 雨に西施が ねぶの花      『奥の細道 』 芭蕉
            (西施とは、中国の春秋時代の傾国の美女)

          

         現在の象潟。中央松林が元の島。1804年象潟地震で海底が隆起、陸地化した。   

ねぶ(nebu)が、ねむ(nemu)に変化したのは唇音退化。(子音弱化)



昼は咲き 夜は恋ひ寝る合歓木の花 君のみ見めや戯奴 (わけ)さへに見よ      紀女郎 8-1461作者
  (大伴家持に贈った歌。相手を戯れに戯奴(わけ)と呼んでいます。家持よりも10歳以上年長の紀女 郎が、若き貴公子家持の心を手のひらに乗せる。その心栄えの面白さ)

  戯奴(わけ)がため 我が手もすまに春の野に 抜ける茅花ぞ食(め)して肥えませ  紀女郎   巻8-1460
     (紀女郎は、上の歌と共にこの歌を贈りました。家持は痩身だったのでしょうか。それとも?)
 

 我妹子が 形見の合歓木は花のみに 咲きてけだしく実にならじかも          大伴家持 巻8-1463
   (これに対して家持が紀女 郎に返した歌。花が咲くばかりで実が成らないのでしょう。貴女の私に対する心は浅いのでしょうね。甘えの気持ち、相手の心を試すようなとがめるような思いが感じられます。) 

 我妹子を 聞き都賀野辺のしなひ合歓木 我れは忍びず間なくし思へば    作者不詳 巻11-2752
   (ふっくらと、くれない色に咲いている合歓木の花のような、いとしいあの子よ)