印南野の 浅茅押しなべさ寝る夜の け長くしあれば 家し偲ほゆ
山部赤人 巻6-940
浅茅原 つばらつばらにもの思へば
古りにし里し思ほゆるかも 大伴旅人 巻-3 333
家にして 我れは恋ひむな印南野の
浅茅が上に照りし月夜を 作者不詳 巻7-1179
山高み 夕日隠りぬ浅茅原
後見むために標結はましを 作者不詳 巻-7 1342
君に似る 草と見しより我が標めし
野山の浅茅人な刈りそね 作者不詳 巻7-1347
茅花抜く
浅茅が原のつほすみれ 今盛りなり我が恋ふらくは 田村大嬢 巻8-1449
戯奴がため
我が手もすまに春の野に 抜ける茅花ぞ食して肥えませ 紀女郎 巻8-1460
(思いを寄せる家持を「戯奴」と表現する。紀女郎は恋の手だれか。
万葉末期の宮廷文化もここまで爛熟しました。恋を楽しむ --- 明るい恋歌です。)
我が君に 戯奴は恋ふらし賜りたる
茅花を食めどいや痩せに痩す 大伴家持 巻8-1462
(しかし、食しても痩せるのですね、と家持。繊細な神経を持つ痩身の貴公子。)
秋萩は 咲くべくあらし我がやどの
浅茅が花の散りゆく見れば 穂積皇子 巻8-1514
( 穂積皇子は天武天皇の第5皇子。つばなの花が散る、との表現が新鮮)
今朝鳴きて
行きし雁が音寒みかも この野の浅茅色づきにける 安部虫麻呂 巻8 1578
松蔭の 浅茅の上の白雪を
消たずて置かむことはかもなき 大伴坂上女郎 巻8-1654
(雪の歌一首。秋も深まり、初雪の朝を迎えたのか)
秋風の 寒く吹くなへ我が宿の
浅茅が本にこほろぎ鳴くも 作者不詳 巻10-2158
秋されば 置く白露に我が門の
浅茅が末葉色づきにけり 作者不詳 巻10-2186
我がやどの
浅茅色づく吉隠の 夏身の上にしぐれ降るらし 作者不詳 巻10-2207
浅茅原 小野に標結ふ空言を
いかなりと言ひて君をし待たむ 柿本人麻呂歌集 巻11-2466
浅茅原 刈り標さして空言も
寄そりし君が言をし待たむ 作者不詳 巻11-2755
浅茅原 茅生に足踏み心ぐみ
我が思ふ子らが家のあたり見つ 作者不詳 巻11-3057
(このリズムが軽やかですね。見るだけで満足なのでしょうか)
浅茅原 小野に標結ふ空言も
逢はむと聞こせ恋のなぐさに 作者不詳 巻12-3063
天にある やささらの小野に茅草刈り
草刈りばかに鶉を立つも 作者不詳 巻16-3887
(題辞に「おそろしき物の歌3首」。草刈場から鶉が飛び立ったので驚いたと。) |