万葉の植物  まゆみ   を詠んだ歌
                              2012.1.12 更新           

 
  

   
  まゆみ   (万葉表記  檀 眞弓)    マユミ    (ニシキギ科)

山野に自生する落葉低木。樹高は高いもので5mくらい。初夏に写真のような淡緑色の花をつけます。世界三大紅葉樹のひとつと言われるくらい秋の紅葉が美しく、庭園樹として植えられているのをしばしば見かけます。雌雄異株。
樹形はしなやかで、すらりと立つ様子は恋する若い娘の姿と重なります。
遠目には、花が咲いているかのように見える紅色に熟した実が、秋の蒼天をバックに揺れているさまはあでやか。こけしや将棋の駒を作るのに使われます。
古代はこの木から弓を作ったことから、美称の接頭語「ま」を付けて弓を「真弓」と呼びました。 しかし、歌の中に武器としてではなくて、たとえを引き出す序詞として詠まれています。
この檀の木の繊維から紙を作っていました。地厚でしわがあり包装用に、表具に、文書を書くのに使われました。
白木のマユミで作った弓を「白真弓」と言い、産地によって「安達太良真弓」「十津川真弓」「常陸真弓」などと地名を頭に付けて呼んでいます。

  秋に熟す実を下から見ると、こんな形。変わり包みの餃子のようです。 熟すとぱかんと4つに割れ、冬の間も落ちずに枝に残っていることが多いようです。
 
 み薦刈る、信濃の真弓我が引かば 貴さびていなと言はむかも      久米禅師 巻2-96

 み薦刈る信濃の真弓引かずして強ひさるわざを知ると言はなくに     石川郎女  巻2-97

 天の原 ふりさけ見れば 白真弓 張りてかけたり 夜道はよけむ        間人大浦 巻3-289

   (空を振り返ると、弓のような月が懸かっている。夜道も薄明るく歩くのに支障がないようだ。)

 陸奧の 安太多良眞弓弦 著けて 引かばか人の吾を言なさむ       作者不詳 巻7-1329

 (「陸奧の 安太多良眞弓弦(つら) 著(は)けて」までは、「引かばか」を導く序詞。弦を張って引くように、恋しい人を誘ったら、噂の種になるだろうか---。)
                       
 南淵の 細川山に立つ檀 弓束纏くまで人に知らえじ             作者不詳 巻7-1330

 (南淵は明日香村の稲淵。この恋が実るまで人に知られることのないように。「弓束纏く(ゆづかまく)とは、弓の左手で弓を握る部分。この部分に桜の皮や皮を巻くことを言います。 この場合、纏く・まくと枕をかけてあります。)

 白檀弓 いま春山に行く雲の 逝きや別れむ恋しきものを            柿本人麻呂歌集 巻10-1923

  (白真弓は枕詞。弓を射るから、「い」を導きます。あの流れる雲のように、あなたと行き別れてしまうのでしょうか、恋しい人よ。)

 天の原 行きて射てむと白真弓 引きて隠れる月人壮士          作者不詳 巻10-2051

 白真弓 石辺の山の常磐なる 命なれやも恋ひつつ居らむ         柿本人麻呂歌集  巻11-2444

  (寄物陳思の歌。白真弓は「石辺」を導く枕詞。永遠の命などあるのでしょうか。いつまでも私はずっと慕い続けることでしょう。)

  葛城の 襲津彦真弓新木にも 頼めや君が我が名告りけむ         作者不詳 巻11-2639

 白真弓 斐太の細江の菅鳥の 妹に恋ふれか寐を寝かねつる        作者不詳 巻12-3092

 陸奥の 安達太良真弓はじき置きて 反らしめきなば弦はかめかも      東歌 巻14-3437