万葉の植物  かしは   を詠んだ歌
                                2012.8.20更新         

 
     
                     端午の節句のころ、枯れた葉が落ちる。 

   
かしは  (万葉表記  柏 加之波 槲 )      カシワ  (ブナ科)

全国に自生する落葉高木。花期は5月、雄花は垂れ下がり雌花は小さく目立ちません。葉は大きく、縁に沿って丸く大きな鋸歯があるのが特徴で、食物を載せるのに適した大きさです。祭祀にも用いられました。名前の由来は、「炊葉(かしは)」から。食器としてカシワの葉がよく利用されていたことちなみます。
樹皮や葉、ドングリは染色の材料となります。

葉には芳香があり、翌年の春、新芽が出るまで古い葉が落ちないことから「代が途切れない」縁起物とされ、塩漬けにされ柏餅を包むのに用いられます。

右の写真にあるように、新芽の萌芽とともに旧年の枯れた葉が落ちることから、世代交代と子孫繁栄を象徴する植物と見られているのですね。
北海道などの寒冷地では、この葉がいつまでも落ちないのを利用して、防風林として植栽されています。
葉が落ちない理由は、葉の付け根の離層の形成が遅いから。(常緑樹になりたがっている?冗談です。)
 
  吉野川巌と栢と常磐なす我れは通はむ万代までに       作者不詳  巻7-1134

(奈良時代、吉野の地は神秘的な場所だとされていました。精霊が宿る聖なる木、柏と巌とを詠み込み、天皇への変わらぬ忠誠心を表現するのでした。)

 秋柏潤和川辺の小竹の芽の人には忍び君に堪へなくに    作者不詳  巻11-2478

(小竹で編んだ目のように、私の思いを他の人には隠してはいるものの、貴方には隠すことはできないでしょう。

 朝柏潤八川辺の小竹の芽の偲ひて寝れば夢に見えけり   作者不詳  巻11-2754

(小竹の芽のように、貴方を偲んで眠ったら夢に見ました。夢に見るのは現実に会えるというしるし。)

 印南野の赤ら柏は時はあれど君を我が思ふ時はさねなし   安宿王   巻20-4201

  (柏が色づくのは決まった季節。しかし私が我が君を慕う気持ちは時期を問いません。安宿王の母は藤原不比等。ために長屋王の変において罪を免れました。「権力闘争の激しい時代です。天皇への忠誠心を表明しないと生き残れない立場だったです 。「赤ら柏」について詠んだこの歌は、さまざまに解釈できます。「あからかしは」を現在の「アカメガシワ(トウダイグサ科) 」と読み取る説もあります。)