万葉の植物  かきつはた   を詠んだ歌
                            2012.6.20 更新

 

      


   
かきつはた (万葉表記  垣津旗 垣津播   垣播  加吉都播多 ) カキツバタ (アヤメ科)
カキツバタ(杜若)はアヤメ科の 多年草。池や川辺の湿地に自生しますが、栽培してその美しさを愛でることが多いようです。
紫や白の花を付けます。この花で花摺りを行ったことから、和名は「書き付け花」。ツユクサに似ていますね。

花の姿はアヤメやハナショウブに似ています。なかなか弁別が難しいところですが、水湿地を一番好む花で、アヤメのように陸上では生息できません。
『伊勢物語』のなかのこの歌を思い出します。
     から衣 きつつなれにし 妻しあれば はるばるきぬる 旅をしそ思ふ  

     (遠くまでやってきたものだ。残した妻を恋しく思い、旅が辛く思われる---。)

カキツバタは、梅雨入り前後の空に映える華やかな色の花を咲かせることから、美人の形容に用いられ、「丹つらふ」、「さ丹つらふ」と言った表現がみられます。

『万葉集』に詠まれた左紀沢、左紀沼は現在の平城宮跡の北、奈良市佐紀町一帯を言います。古代は沼沢地が広がり、美しいカキツバタが咲き誇っていたことでしょう。

  
 常ならぬ 人国山の秋津野の  かきつはたをし夢に見しかも          作者不詳 巻7-1345

  (「常ならぬ」は「人」にかかる序詞。)

 我れのみや  かく恋すらむかきつはた 丹つらふ妹はいかにかあるらむ   作者不詳 巻10-1986

  (相聞の歌。私がこんなに恋しているのに、あの可愛らしい彼女は僕のことをどう思っているのだろうか。)

 かきつはた  丹つらふ君をいささめに 思ひ出でつつ嘆きつるかも      作者不詳 巻11-2521

  (この場合の「君」は男性。若々しい男性も、かきつはたと褒められるのですね。)

 かきつはた 佐紀沼の菅を笠に縫ひ 着む日を待つに年ぞ経にける     作者不詳 巻11-2818

  (咲く → さき → 佐紀沼。美しい人を見つけて思っているうちに、何年も経ってしまったことだなあ。)

 かきつはた左紀沢に生ふる菅の根の  絶ゆとや君が見えぬこのころ     作者不詳 巻12-3052

  (「かきつはた左紀沢に生ふる菅の根」は「絶ゆ」にかかる序詞。このところ慕う君はおいでにならない---。)

 住吉の 浅沢小野のかきつはた衣に摺り付け  着む日知らずも       作者不詳 巻7-1361
 かきつばた  衣に摺り付け大夫の 着襲ひ猟する月は来にけり       大伴家持 巻17-3921

  (カキツバタの花は摺染に用いられました。家持は「カキツバタの花を着物に摺り付け薬狩のお供をするころになったという感慨を歌っています。薬狩りとは、宮中の初夏の行事で天皇は百官を従えて野に出て薬草を摘みました。楽しい行事だったことでしょう。家持の弾んだ気持ちが伝わってきます。)