象の耳はヒマラヤユキノシタ   

 ヒマラヤユキノシタ   (ユキノシタ科ユキノシタ属)

持つべきものは知恵ある友。
長年頭を悩ませていた案件が、彼女の一通のメールで氷解したのです。その瞬間の嬉しさときたら、夜空にオーロラが現れ、緑や赤のカーテンをかけたら、おそらくこのように高揚した気分になると思わせてくれるような。
あまりにあっけなくて、これまでのわが調査能力に疑いを持ったほどでした。
 

それは、「象の耳とはなにか」から始まりました。
    
「かもしれない。判明しません」で探索が終わる・・・これではなんとも納得しがたく、「わが矜持に関わる問題」ではないかと、じくじく考え続けていたので す。

 樅の木の下にはビロードのような苔がふかぶかとはえており、さらにすすむと、木はちいさく数も少なくなり、地面にはいろいろの下草がしげっていた。「まあ、秋海棠がたくさんあること(a lot of elephant's ears)!」ダイアナは叫んだ。「摘んで大きな花束をつくるわ。とてもきれいなんですもの。」「どうしてこんなにやさしい、羽根のようなものに(graceful feathery things)、象の耳(elephant's ears)なんてそんないかめしい名前がついているんでしょうね?」とプリシラがきいた。                          
                    『アンの青春』 第13章   たのしいピクニック

 (
The path was a winding one, so narrow that the girls walked in single file and even then the fir boughs brushed their faces. Under the firs were velvety cushions of moss, and further on, where the trees were smaller and fewer, the ground was rich in a variety of green growing things.
"What a lot of elephant's ears," exclaimed Diana. "I'm going to pick a big bunch, they're so pretty."
"How did such graceful feathery things ever come to have such a dreadful name?" asked Priscilla. )

結論に至らぬまま時間が過ぎていきました。
常に喉の奥に魚の骨が引っ掛かったような思いを持てあまし、ある日思い切ってカナダ・トロント在住のKさんにお尋ねしたのでした。
すかさず返信があり、(2016年12月)

Wikipededia」には、Begonia grandis(シュウカイドウ)が elephants earsと呼ばれているとは書かれていませんが、Bergenia (ヒマラヤユキノシタ)が、elephant's earsと呼ばれているようです。これは寒さに強い品種らしい。葉っぱがハートの形でピンクの可愛い花が咲くようです。

 < 
https://en.wikipedia.org/wiki/Bergenia > (
英語
 < 
https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒマラヤユキノシタ >
 

さすが!

象の耳と称されるのはなにか:
今までの調査によると、以下の通りです。
    ・観葉植物のカラジウムやカラーの葉。
    ・里芋やタロイモの葉
    ・ミモザのような葉をつける木でElephant's ear tree。種が耳の形をしているから。
    ・ベゴニアやシュウカイドウの一種。葉が象の耳に似ているから。

これら以外に「ヒマラヤユキノシタ」がそう呼ばれているとは知らなかった・・・。
Kさんはカナダ在住歴が長く、かの国の文化や風習を知悉し、語学にまことに優れた方。
英語力とお手のものの検索能力を駆使して、いとも軽々と結果にたどり着くことができたのですね。
大感謝であります。

下の画像が私の庭に咲く「ヒマラヤユキノシタ」(ユキノシタ科ヒマラヤユキノシタ属)
花期は早春。名前の通り、原産地はヒマラヤ山脈周辺で、寒さにはめっぽう強く、カナダでも生息可能です。種類によって生息適地が異なります。

      ヒマラヤユキノシタ      

「象」という言葉が何かを象徴するのでないかと考えて寄り道をし、堂々巡りののち、ヒマラヤユキノシタの葉が似ていることから「象の耳」と呼ばれている。こんな単純な結果に舞い戻ってきました。

葉が象の耳のように広がり垂れ下がることから、ヒマラヤユキノシタが「象の耳」と呼ばれているなら、体は名を表す、または名は体を表す、でしょう。ここで引っかか たのが、原文にある、

 「どうしてこんなにやさしい、羽根のようなものに(graceful feathery things)、象の耳(elephant's ears)なんてそんないかめしい名前がついているんでしょうね?」とプリシラがきいた。  

             『アンの青春』 第13章   たのしいピクニック

ずっと「graceful feathery」に引きずられていました。「やさしい、羽根のようなもの」。
この表現に悩みあれこれ考えを巡らせているうちに思いついたのが、同じユキノシタ科の「ティアレア・Tiarella 」。これは下の画像に見られるように(graceful feathery things」という表現にぴったり!



ティアレア
 (ユキノシタ科)
 


 原産地は北アメリカ、東アジア〜ヒマラヤ
 草丈:20cm-40cm 開花期:4-5

原産地が北アメリカ、というのにこころ惹かれます。
そのむかし、アメリカ大陸とユーラシア大陸が繋がりを見せていたころから存在し、以後分断されたのち、ユキノシタ科の下位分類として進化を見せたとも考えられます。

はじめ、ユキノシタ科のヒマラヤユキノシタを、その葉の形状から「elephant'sear」と呼び、ユキノシタ科の一種である「Tiarella・ティアレア」を同じように、「elephant'sear」と呼んだとしても不思議ではありません。

一つの言葉がある集まりを代表することもある・・・。
たとえば蓼の仲間(サクラタデ、イヌタデ、プントクタデ、ハナタデなど)をすべて「タデ」と呼び慣らし、
各種ある萩(ミヤギノハギ、ヤマハギ、メドハギなど)を「ハギ・萩」と呼ぶように。

などとさらに考えを巡らしていると、先述のKさんから新しいメールがあり、
 

PEIの人が、どんな植物をElephant's earsと呼んでいるのか、という視点でサーチしてみた。下記のようなものを見つけました。
PDF
ファイルです。この最終ページの左上に画像があります。
 < 
http://www.annestore.ca/chronicle_files/July%202006%20.pdf >

画像の下に、象の耳に囲まれて咲く黄色のレイディーズスリッパ、とあります。この丸っぽい緑の葉を持つ植物が、島で一般に象の耳と呼ばれている植物ということ。
葉っぱからすると、Bergenia Crassifoliaという植物に似ているような気がします。
どうでしょうか?」

「象の耳に比較されると大概の植物が羽のように軽い存在じゃないかと思えます。もしかして、プリシラがその花を見たとき、羽のようにひらひら風に揺れていたのかなあ。
想像の翼が広がりますねえ。」

同感です! 
なるほど。「
PEIの人が、どんな植物をElephant's earsと呼んでいるのか、という視点」
いままでの調査の方向性に間違いがありました。植物学上ではどの植物に当たるのかではなくて、これはあくまでも島の人たちが 日常生活のなかで、その植物をどう呼びならわしているのか、が一番重要なことでしたね。

 < http://www.annestore.ca/chronicle_files/July%202006%20.pdf >
画像から、葉柄はすっきり伸び、葉は小さく日当たりの悪さから全体がやや徒長気味。ある角度でねじれながら葉が付いていて、その間から花柄が伸びていたと見て取れます。花期が早春というのもこの場面に相応しい。

この場面の訳文から読み取れるのは「摘めるほどの花の大きさと葉柄の長さ」。
羽根(feather)ではなくて、羽(wing) だと考えると、ピンクの花の塊(花房)に、柄のあるつるっとした葉をあしらうと、それは見ごたえのある花束ができたことでしょう。
 

では、堂々巡りのそのはじめの「秋海棠・シュウカイドウ」がなぜ「象の耳」と訳されたのか?に戻ると。

その理由ははじめに書いたように、葉が左右非対称で、その形が「象の耳」に似ているから、でした。 

私が、こんな単純な由来に長年引き回されたのはなぜか?
おそらく生半可な植物に対する知識があったからこそ、「早春の島の沼地にシュウカイドウが群れ咲くことはありえない。」この事実にこだわってしまったからなのです。

訳者が植物の生育状況に詳しくて、繁茂する季節を知っていたら、ここを訳す時点で疑問に思ったのかもしれませんね。 

Eureka! この嬉しさをなんとしよう!