象の耳 

  エレファンツ・イヤー  Elephant's ears 象の耳 
              何にあたるのか、わかりません。・・・これが結論。(2015年)
  樅の木の下にはビロードのような苔がふかぶかとはえており、さらにすすむと、木はちいさく数も少なくなり、地面にはいろいろの下草がしげっていた。「まあ、秋海棠がたくさんあること(a lot of elephant's ears)!」ダイアナは叫んだ。「摘んで大きな花束をつくるわ。とてもきれいなんですもの。」「どうしてこんなにやさしい、羽根のようなものに(graceful feathery things)、象の耳(elephant's ears)なんてそんないかめしい名前がついているんでしょうね?」とプリシラがきいた。                          
                                                      『アンの青春』 第13章   たのしいピクニック


 (
The path was a winding one, so narrow that the girls walked in single file and even then the fir boughs brushed their faces. Under the firs were velvety cushions of moss, and further on, where the trees were smaller and fewer, the ground was rich in a variety of green growing things.
"What a lot of elephant's ears," exclaimed Diana. "I'm going to pick a big bunch, they're so pretty." "How did such graceful feathery things ever come to have such a dreadful name?" asked Priscilla. )
  
  象の耳のイメージのいろいろ  個人的にはクサソテツに軍配をあげたい。
      シュウカイドウ        クサソテツ         象です。
  (那須、モンキーパーク)
     キジノオシダ(雉の尾羊歯)      タロイモの葉      アスパラガスシダ

 はて、象の耳とは。
「象の耳」と称する植物はいくつかあります。

       観葉植物のカラジウムやカラーの葉。里芋やタロイモの葉を指す。
    ミモザのような葉をつける木でElephant's ear tree。種が耳の形をしているから。
    ベゴニアやシュウカイドウの一種。葉が象の耳に似ているからか。

 5月の島は、ちょうど雪解けの季節。すみれが咲き、山桜が白く盛 りあがり、シダがくるくるした葉をのぞかせている。ヘクター・グレイの庭には水仙が波打っている。
これは春の入り口の景色でしょう。爛漫の春はもう少しです。まだ林の中はゴム靴を履かないと歩けない程ぬかるんでいるはず。
「木はちいさく数も少なくなり」というのは、4人は湿地帯に入り込んだということでしょうか。そこで見つけた「象の耳」とは?

かねて、この「Elephant's ear」が何なのか。頭を悩ませていました。
訳文には「「Elephant's ear = シュウカイドウ・秋海棠」とあるのですが、秋海棠は発芽が遅く、とてもカナダの5月に芽吹き、茂っているとは考えにくいのです。
おまけに姿かたちが「優美な羽のようなもの(graceful feathery things)」ではありません。
そこで、考えました。「Elephant's ear」には何か象徴的な意味があるのではないか、と。「Elephant's Memory」が象の優れた記憶力の象徴であるように。
 

読み進めていると、 同じ章に「長い羽根のような草(long feathery grasses)」とあるのです。これは上に書いた「象の耳(elephant's ears)」とも考えられませんか。(
こじつけ)さらに、『エミリーはのぼる』第24章に、ミス・ロイヤルの「アスパラガス羊歯」という言葉が出てきます。

ミス・ロイヤルは延々と続くであろう 島での平凡な生活をこう描写しています。

  「写真をゴタゴタ飾りたてたマントルピース --- 八インチの幅に伸ばした絵の枠----赤いビロードの表紙のアルバム --- 空いている寝室のベッドの上にふとんをのせて ---- 廊下には手染めの小旗を飾って---- 最後の仕上げにはアスパラガス羊歯の鉢が食堂のテーブルのまんなかにあるという具合でね」
       『エミリーは登る』 第24章 まぼろしの谷

 (--"and you'll have a parlour like this of Aunt Angela's," continued Miss Royal relentlessly. "A mantelpiece crowded with photographs--an easel with an 'enlarged' picture in a frame eight inches wide--a red plush album with a crocheted doily on it, a crazy-quilt on your spare-room bed--a hand-painted banner in your hall--and, as a final touch of elegance, an asparagus fern will 'grace the centre of your dining-room table.'")

このアスパラガス羊歯(アスパラガスデンシフロールス asparagus-fern)こそがこの象の耳ではないか、とひらめいたのでした。ほかにキジノオシダ(雉の尾羊歯 )、クサソテツ( 草蘇鉄 )などが羊歯の類として島に生育します。
当然、ひらめきだけでこれと決めつけるわけにはいきませんが、わざわざ摘んで帰ろうかと考えるほどの植物です。さぞかし雰囲気のある物なのでしょう。

動物の名前が付いた植物は、日本だけでなく、海外にも数多く存在します。
名前を結び付けることで、更にその植物が分かりやすくなります。身近なものにある例として、

角虎の尾(カクトラノオ)、猫萩(ネコハギ)、熊苺(クマイチゴ)、猫の目草(ネコノメソウ)、馬の足型(ウマノアシガタ)、麒麟草(キリンソウ)、雀瓜(スズメウリ)、鷺草(サギソウ)、燕万年青(ツバメオモト)、蝮草(マムシグサ)、鷹の爪(タカノツメ)、蛍袋(ホタルブクロ)、蜻蛉草(トンボソウ)など。

アスパラガスシダが象の耳なのか確証はありません。そもそも栽培種が逃げ出したとしても、島の自然のなかで生育できるのかという疑問が残ります。
今回の探索は結果が残せませんでした。
途方に暮れ、作者が日記にでも書き記していてくれたらと思うばかりです。