すもも 

  スモモ  Wild Plum   バラ科サクラ属の落葉低木

すもも(李)はバラ科サクラ属の落葉高木。果実の酸味が強いことから「酢桃」と書かれることもあり、生食にジャムに果実酒に、乾燥させて干しスモモにと利用されます。
スモモは大きく中国原産の日本スモモと、コーカサス地方原産の西洋スモモに分けられます。果実が熟すのは夏から秋の初めで、皮や果肉の色もさまざま。アンが島で見たのは、おそらくAmerican plum。北アメリカ原産で広く栽培され、果実は赤や黄色、茶色を帯びたオレンジ色などに熟し、野生のものも見られます。

写真は日本のスモモの白い花。

 
野生のすももがかげろうのような花をしだれさせている(wild plums hung out their filmy bloom)窪地を通ったりして行った。・・・ ところどころ野生のすもも(wild plum)が岸からのりだしているようすは、爪先立てて水にうつった自分の姿をながめる少女を思わせた。          
         『赤毛のアン』 第2章 マシュゥ・クスバートの驚き

Matthew Cuthbert and the sorrel mare jogged comfortably over the eight miles to Bright River. It was a pretty road, running along between snug farmsteads, with now and again a bit of balsamy fir wood to drive through or a hollow where wild plums hung out their filmy bloom. The air was sweet with the breath of many apple orchards and the meadows sloped away in the distance to horizon mists of pearl and purple; while)

 (アラン牧師夫妻をお迎えするのに)それと、マリラお得意のあんず(yellow plum preserve)の砂糖づけ。これはマリラが特別に牧師さんがたのために、しまっておくごちそうなのよ。
         『赤毛のアン』 第21章  香料ちがい

 (--
and Marilla's famous yellow plum preserves that she keeps especially for ministers, and pound cake and layer cake--)

 マリラが牧師様に特別に用意したのは、黄色のプラムの砂糖漬け(yellow plum preserve)でした。
わざわざ「黄色のプラム」と書かれているからには、果肉の黄色いカナダプラムだったのかもしれません。
野生のスモモのなかでも特別味の良い個体の果実だったのでしょうか。あるいは、村岡訳の「あんず」そのものだったのか。上手に出来たあんずジャムのおいしさときたら、マリラではないけれど、牧師さん向けです。

ほかに blueplumもあり、村岡はこれを「あんず」と訳しています。別紙で見てみましょう。

 「かげろうのような花がしだれる」、「爪先立てて水にうつった自分の姿をながめる少女」、あるいは「かすみのような美しいヴェールをまとったお嫁さん」。これらの村岡訳を並べると、すもものいかにもふわふわとした華奢でさわやかな花、そして花の命の短さを感じるのです。

この「かげろう」という表現は、儚い命しか持たない虫のカゲロウなのか、あるいは陽炎なのか。あなたはどちらだと思いますか。(私なら「縫い目のない羽衣のような」と書きたいところ。蛇足でした。)     

花の蜜がよほど虫たちにとって魅力的なのか、花を開いたと思うと受粉を済ませ、数日で散り始めるすももは、春の早い時期の風物詩。
「爪先立てて水にうつった自分の姿をながめる少女」 ---悲観的になっている自分の赤毛と対応し、思春期の入り口にいるアンの自意識を象徴的に表していると思うのです。
 花言葉は、忠実、義務の遂行。 『赤毛のアン』 第16章 のプディング・ソースの事件を思わせます。プディング・ソース入れの蓋をするのを忘れ、ネズミが中に入ってしまった、というくだりにふさわしいではありませんか。
くすり、と笑えるお話ですね。