あんずかプラムか 

  アンズかブループラムか  バラ科 
            アンズは 学名 Prunus armeniac スモモの学名は、Prunus salicina

原文を読んでみて驚いたことがありました。村岡本では「blue plums」を、「アンズ・あんず・杏」と訳出されていることです。
子供時代に果物の産地の山梨県に暮らした訳者が、ブループラムを訳すのに、なぜ「アンズ」の語彙を選んだのでしょうか。
プラムも、アンズも、スモモも、いずれもバラ科スモモ亜属の仲間ですから、大きな間違いではありません。
しかし、日本人にとって、スモモとアンズの違いは大きいのです。

  ルビー・ギリスは聖書の時間にあんず(blue plums)を三個、そっと手わたしてよこしたし、----
        『赤毛のアン』第17章  新しい刺激   村岡花子訳

  (
Ruby Gillis smuggled three blue plums over to her during testament reading; ---)

  それから、自分で戸棚からあんず(some blue plum preserve)の砂糖づけを出してきておあがり。
       『赤毛のアン』第18章 アンの看護婦  村岡花子訳

------ Anne, and you can get yourself some blue plum preserve out of the pantry.
 


  アンズ これからジャムにします。


  ブループラム プルーンとも 
   鉄分豊かで、○○○の薬。
   食べすぎると危ないことに。

は、検証してみましょう。
まず、砂糖漬けに関しては、砂糖を強く効かせ消毒した容器に入れ、薄暗い地下室に置いておく限り、おそらく加工後の1年間は保存できるでしょう。
ですから二番目の「砂糖漬け」では、アンズかブループラムかを判断できません。
でも、ブルーの形容詞が付いている・・・。酸っぱい野生のスモモだった可能性も捨てきれません。 島ではワイルド・プラムと呼ばれる赤いスモモが栽培されていたようです。
 ダイアナの妹の危機を救ったアン。疲れを癒すのに、砂糖漬けはさぞ身体に優しかったことでしょう。


次に、ルビー・ギルスが「あんずを三個、そっと手渡した」季節はいつか?三個、すなわち形がある果物ですね。
アンズの収穫の季節は、日本だと梅雨の終わりがけから本格的な夏が来る直前。
ブループラムを採りいれる時期は、夏の、それも終わりごろ。アンズとブループラムでは収穫時期におよそ40から50日の隔たりがあるのです。
名高い「いちご水」事件が起きたのは、10月。ダイアナとの仲を裂かれたアンが、学校にしか生きる場所が無いと悟り、再び学校へ通う決心をした のは、当然10月でしょう。
学校での成績によって、自分の価値を認識できたアン。ここで新しい扉を開きます。

生食にも適したブループラムは、常温に置いても比較的日持ちします。
ルビー・ギリスの家にはブループラムの樹があったのかもしれません。再登校してきたアンを歓迎するプレゼントとして、お弁当に入れてきたブループラムを手渡したのではないでしょうか。
現在、日本では、ブループラムとは生のものを言い、乾燥させたもの、あるいはケーキの材料に加工されたものはプルーンと呼ぶようです。

一番考えられるのはこうです。プルーンがまだ日本で知られていなかった時代なので、訳者の村岡花子さんは、日本人に身近な「あんず」と訳されたのではないか。
日本で本格的に乾燥プルーンが市場に出回り始めたのは、1990年代から。以後長野県や北海道などで栽培されています。
それはそうと皆さん。ウェッジ・ウッド社の、ブループラムシリーズ。私は大好きです。

                                                                                     

2024.6.25 追記
松本侑子訳の『赤毛のアン』には、上記2件の
blue plums」は、そのままブルー・プラムと訳出してある。

2014.7.15 追記
今日は信州産のアンズをジャムにしているところ。追熟させ、アクを抜き、じっくり煮込む。
梅ジャムづくりと違い、アンズは水分が多いので、加える砂糖の量を加減しないとね。
さもないと市販のジャムのように、甘味が先走るジャムに仕上がってしまうから。