はじめは石楠で、そしてメイフラワーを差し出したギルバート。
原文の「arbutus」は、ヨーロッパやアメリカのツツジ科arbutus属の常緑低木の総称で、特に北米ではTrailing
arbutus (Epigaea repens ツツジ科イワナシ属) 、日本での同属植物「イワナシ」
を言います。村岡訳では、石楠で代表させたのでしょう。
つまり、作者モンゴメリは、メイフラワーがカナダではどの植物を差すのか、十分知っていたにもかかわらず、arbutusとMayflowersを遣い分けていたことになります。
小文字と大文字の違いにも注目してみますと、私はこのように受け取りました。
「青白い、やさしい石楠(本文ママ、実はarbutus)」を見つけた。
まだ花の時期には早いらしく、うっすら色付いた花弁はほんの少し口を開いているだけ。香りもそれほどないことでしょう。それを両手いっぱいに摘み、アンの隣に座り、小学校時代の思い出をこの花に込めてアンに捧げた。この時点で、ギルバートの「春」そのもの、「青春」、「アンに対する思い」としてarbutusはMayflowersへ昇華したと。
そのために「石楠花」を置いたとも考えられます。
追記(2025.9.4)Nさん、教えてくださってありがとうございます。
なぜ村岡さんははじめ「石楠花」、次は「メイフラワー」の言葉を遣って「同じ花」を書き分けたのでしょう。
どちらもツツジ科の植物で、早春から春にかけて咲きます。
「Trailing arbutus (Epigaea repens )は、ツツジ科イワナシ属 。
「シャクナゲ・石楠花」はツツジ科ツツジ属。
その理由は?翻訳者ご本人でないと分からないでしょうが、さまざま考えられます。同じツツジ科だから、春咲くから、アンの風貌・性格に似合うから?村岡さんの頭のなかには、あるイメージがあって似合う言葉を探していた、そう受け取れます。「メイフラワー」で象徴させたるために「石楠花」を予め必要としていたとも。
ギルバートが捧げたのは、やはり「Trailing arbutus」(Epigaea repens ツツジ科イワナシ属)です。
木本の「Trailing arbutus」を摘むのはなかなか手ごわく、おまけに蔓めいた茎は花束になりにくいのですけどね。
* メイフラワーとは文字通り、5月に咲く花の総称。
イギリスではサンザシ(山査子、バラ科サンザシ属の落葉低木)をメイフラワーと呼ぶことから、村岡訳のアン・シリーズではサンザシと訳出されています。(サンザシ)のページを参照してください)
** ほかに: Mayflowerとは、5月に咲く花
で
特に[英] サンザシ(hawthorn) キバナノクリンザクラ(cowslip) リュウキンカ(marsh
marigold) [米]イワナシ(arbutus) アネモネ(anemone)。
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(英) サンザシ |
(英) リュウキンカ |
(英)
キバナノクリンザクラ |
(米) アネモネ |
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