まんねんすぎ ( 這い松

 まんねんすぎ Ground pine  
                                  (Lycopodium obscurum)
  ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラ属)

訳文の這い松の名前だけ見ると、日本の高山地帯に生える常緑のハイマツを思い出しますが、このGround pineは羊歯・シダの一種。
島の針葉樹林や雑木林の下草として生え、地下茎を伸ばして繁殖し、高さ20センチ前後。
一見樹木に似た形をしています。夏季5センチほどの石松子と呼ばれるすんなりした胞子嚢穂(ほうしのうすい)を伸ばすのが特徴で、この時期に発見しやすくなります。
このGround pine)は常緑であることから、生命力の強さを表し、島ではクリスマスの飾り付けやリースの材料として使われます。和名の由来は常緑で、杉に似ていることから。茎は主軸と側枝がある。主軸は地中を匍匐し、側枝はまばらに地上に直立し、樹木状に分枝する。ヒカゲノカズラ属の中で主軸が地中にあるのは珍しい。全体を上から見ると円形に広がる。葉は螺旋状につき、質がやや硬く、長さ34o、幅約0.6oの線形、鋭頭、全縁。胞子嚢穂は柄がなく、長さ23p、幅 45o、小枝の先に1個ずつつく。胞子葉は長さ約3o、幅約2oの広卵形。胞子嚢穂がない冬は、スギの若木とよく似ている。しかし、クリスマス直前の、森が白く覆われるころに散歩に出かけた四人が、雪の下に埋もれるこのGround pineをどうやって見つけたのか、疑問です。
ディビーが掘り起こしたのでしょうか。
 

  (クリスマス・ツリーの花輪にするため森へ出かけたアンとカザリンと双子は這いえぞ松(creeping spruce)や這い松((ground pine)を摘み取り、冬じゅう森のとある深い窪みに青々としてしげりつづける羊歯まで摘んでさまよい歩くうちに、太陽は白い山腹の上から夜のほうを振り返ってほほえんで見せた。 
                                              『アンの幸福』  2年目 
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 ( They wandered about, gathering creeping spruce and ground pine for wreaths . . . even some ferns that kept green in a certain deep hollow of the woods all winter . . . until day smiled back at night over white-bosomed hills and they came back to Green Gables in triumph . . . .)

 プリンスエドワード島のまんねんすぎ 
           
Ground pine

  スイス、グリンデルワルト マンネンスギ 上

 

   日本のヒカゲノカズラ  上
 

日本の同属植物にヒカゲノカズラ(日陰鬘、学名:Lycopodium clavatum)があります。

 ヒカゲノカズラは日当たりのよい場所で地表を這うように群生します。
細かい葉におおわれた茎の様子が杉に似ていて、地表を這いずり廻り、長く伸びる様子は一見巨大に育った苔。
胞子嚢穂はまんねんすぎと同じく石松子と呼ばれ、漢方で薬用として、リンゴの人工授粉のための花粉の増量剤として、加工されてアート素材にと、その珍しい姿を利用されます。ヒカゲノカズラ科の常緑多年生シダ植物。林床や路辺に生える常緑の草本、と植物図鑑にありますが、この三年というもの探しに探して、それでも見つかりませんでした。ようやく出合えたのは、なんと自分の庭の片隅で、でした。青い鳥はやはり身近にいたのです。
葉は短い線形で、棘があるように見えますが、実際触ってみると真綿かと思えるくらい柔らかいのです
。 この Ground pineは、四億年前に陸上に現れた古代植物の代表種。切り取っても長く緑色を保っているので、日本では古代から清浄な植物、霊力のある植物とされ、髪に飾ったり祭祀に用いられたりしました。「かつら」は神連(かみつら)の意で、頭にこのヒカゲノカズラを巻くと、霊性を身につけることができるとされ、現代でも、正月の床飾りやめでたい料理の飾りとして、ヒカゲノカズラが用いられます。 

○ 古事記 [天の岩戸の伝説] より

天照大神が岩戸に隠れてしまい世の中が暗闇になった。その天岩戸の前で、太陽(天照大神)の復活を祈って天宇受売命が踊った際に、この植物を素肌にまとったと言われます。別名カミダスキ 

 ----- 天手力男の神戸の掖に隠り立ちて、天宇受売(あめのうずめ)の命、天の香山の天の日影を手次にかけて、天の真拆を鬘として、天の香山の小竹葉を手草に結ひて、天の石屋戸にうけ伏せ、ふみとどろこし神懸りして、胸乳をかき出で、裳紐をほとにおし垂れき。ここに高天原動とよみて、八百万の神共に咲ひき。  

「日影を襷にかけ」とあるこの日影がヒカゲノカズラ
現在でも京都伏見稲荷大社の大山祭では、参拝者にお神酒とヒカゲノカズラが授けられます。

三年前のことでした。
奈良への旅で、吉野山の頂上から、紀州の山並みを --- それも名前が果無山脈を望んで立った時、足元にこのヒカゲノカズラが縦横にはびこっていたの に出合いました。
古代と現在の自分とが交差した一瞬です。    
奈良の地にはいまだに、ヒカゲカズラを頭に飾った舞姫が踊る「五節の舞」が残り、大嘗祭や新嘗祭にもかつてはこれが用いられたと言う歴史を持ちます。
 

  ○ 枕草子第66段 [草は]にも。

----- しのぶ草、いとあはれなり。道芝、いとをかし。茅花もをかし。蓬、いみじうをかし。山菅。日かげ。山藍。浜木綿。葛。笹。青つづら。なづな。苗(稲の苗)。浅茅、いとをかし。----