クロッカスの花か、サフラン色か。

  クロッカス   Crocus   アヤメ科クロッカス属の総称 

Crocus(クロッカス)は、ギリシャ語の croke(糸)から。 めしべが長く糸状に伸びることに由来します。 

現在、クロッカスと呼ばれ、園芸植物として普及しているのは、ほとんど耐寒性のある秋植え球根植物で、原産地は地中海沿岸から小アジア。 別名:花クロッカス
肥えた土地を好み、花時には適当な水分を必要とし、夏の乾燥と高温を嫌います。
適地に植えれば、毎年早春のある日花を咲かせ、それは嬉しい春の訪れ。
花色は豊富で、黄色、白、紫、赤紫、藤色、クリームなど。網目状に模様が入る絞り咲きもあります。

ところが、アンの時代の Crocusは、サフラン=秋咲きクロッカスのことなのです。
  (* 
Wildflowers of Britain』) (saffron crocus

晩秋に咲き、めしべを薬用やスパイスとして用いることで知られます。サフランライス、パエジャ、ブイヤベースといえば、サフラン。
あの香り高く食欲をそそられる赤い色は、このサフランから採れるのです。
   
 これがサフラン 雌しべを乾かす時、風に飛ばされないように。  
                        
 

   橋のへんからその砂丘のほうにかけて、はなやかなさまざまな色が池の水を染めていた。---クロッカスやばらや、透きとおるような、草の緑が、この世のものとも思われぬ影をおとしている上に、なんとも名のつけようもない、とりどりの色が消えたり、あらわれたりしていた。
              『赤毛のアン』 第2章 マシュウ・クスバートの驚き

(A bridge spanned it midway and from there to its lower end, where an amber-hued belt of sand-hills shut it in from the dark blue gulf beyond, the water was a glory of many shifting hues--the most spiritual shadings of crocus and rose and ethereal green, with other elusive tintings for which no name has ever been found.)
 

村岡訳では、上記のように
「クロッカスやばらや、透きとおるような、草の緑が、この世のものとも思われぬ影をおとしている」とあります。
しかし、疑問が湧いてきます。ばらもクロッカスも、花期は合っているのですが・・・・。

クロッカスの花の背丈は、せいぜい10センチ足らず。
この花が池の水面に影を落とすかしら?

水は、「the water was a glory of many shifting hues」の状態で、それはあたかも「the most spiritual shadings of crocus and rose and ethereal green」の色が日の光に映えていた、と考えると納得できるのです。

ここでの「ばら」や「クロッカス」は、花そのものではなくて、早春の花の代表し春の気配を含んだ水の色であり、これから始まるであろう 、グリーン・ゲイブルスでのアンの新しい子供時代の幕開けを彷彿とさせるものだと考えました。

同じ部分が本侑子訳にはこうあります。 ( 『赤毛のアン』 第2章 マシュウー・カスバートの驚き ) 

 池のなかほどには橋がかかっていた。そこから池の端まで琥珀色の砂丘が連なってのび、さらにそのさきは、紺青の入り江だった。池は、変幻自在に色を変えながら輝いていた。サフラン色、薔薇色、清らかな緑色、そして名状しがたいさまざまな色彩が崇高に移ろい、水面に浮かんだり消えたりしていた。

林檎の花の咲く春。その中を馬車で走るマシュウとアン。午後の風に水面が揺れる。やや斜めに差し始めた日の光に反射して、水がその色相を変えていく。
これからのアンの生活の多彩さを象徴しているかのようです。

マシュウが、駅に「子供を」(この時点では子どもと訳されていて、名前は性は与えられていません)迎えに行く場面に、クロッカス、ばら(きっと早咲きの) や、「透きとおるような草の緑」を配したあたり、島の四季を知り尽くし愛した作者の愛情が感じられます。


    花クロッカス 春咲きクロッカス)


   花クロッカス (春咲きクロッカス)