「いつか本に、ばらはたとえほかのどんな名前でもおなじように匂うと書いてあったけれど、あたしどうしても信じられないの。もしばらが、あざみとかキャベツ(a
thistle or a skunk
cabbage.)なんていう名前だったら、あんなにすてきだとは思われないわ。・・・」
『赤毛のアン』 第5章 アンの身の上
("Well, I don't know." Anne looked thoughtful. "I
read in a book once that a rose by any other name would
smell as sweet, but I've never been able to believe it.
I don't believe a rose would be as nice if it was
called a thistle or a skunk cabbage. )
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この本とは、シェクスピアの『ロメオとジュリエット』(Romeo
and Juliet)。
この中にこういう台詞があるのです。
What’s
in a name? That which we call a rose By any other
word would smell as sweet.
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名前に拘泥するアンの気持ちが良く分かる台詞です。単なる記号とは言え、名前がイメージするものは、人間にとってもその人生に大きな影響を与えるもの。
言葉の響きや美しさ、名前に込められた言霊を感じる力があるアン。
ではなぜアンは「あざみやキャベツ」を例に挙げたのでしょう。
貧しさゆえに学校で学ぶことができなかった子供時代に、シェークスピアの本を何度もなんども繰り返し読み、自分の心の糧としていた・・・心酔していたアンです。
たとえ実際に見たことは無くても、日本人に取って北海道に自生するクロユリ、関東以北に自生または植林されたアカシア(実はニセアカシア)が、慕情や失った愛を象徴するように、あざみやキャベツを引き合いに出すことで、あざみが嫌な名前で印象が良くないことを言いたかったのでしょうか。
スイス、ベルナーオーバーラント州、モンテローザ山の麓で。 (2008年夏)
おそらくキルシウム・ヘレニオイデス (Cirsium
heleniodes)でしょう。アザミの種類は世界で400種近くもあり、変異も多いので同定は難しいのです。 |
イスラエル、ガリラヤ湖畔のキブツの農場で。
(2014年3月)
小麦の畑の端に、退治しそこねたたアザミ、その隣には黄色い花のキャノーラ(アブラナの仲間)。食用油を採ります。
前景は、イエスが処刑されるときに頭に被された「茨」の木かと。 |
聖書創世記(3章18節)には、人間が堕落する場面に
「地は茨とあざみを生じるであろう。イスラエルの民が僧侶を崇拝するのに、茨とあざみがその祭壇に上に生え茂るであろうと告げ・・・・」 アダムの罪が地上にもたらした呪いの象徴として言及しています。
ところで。標準和名の「アザミ」という名前のアザミはありません。ここでのアザミはアザミの総称。
アザミは山菜として知られ、特に「ヤマゴボウの醤油漬け」として売られているモリアザミ、ヨーロッパで食されるアンテイチョークはチョウセンアザミと、利用法はさまざま。
健胃、利尿などに効き目があり、日本やヨーロッパでも古くから生活の中で用いられてきています。
○ 平たくも春日を受ける小さき島押しつつむごと白波の寄る (Ka)