アスター

  アスター  Aster  キク科シオン属     エゾギク  キク科エゾギク属
 窪地を流れている小川は森をではずれて、きらっと輝いたかと思うと、また森にかくれた。いまや街道は秋のきりん草やくすんだ青色の菊が両側にリボンのように(ribbons of golden-rod and smoke-blue asters)咲いている間を、さんさんと日光を浴びながら走っていた。 
                                         『アンの青春』 第6章  人さまざま


 (A September day on Prince Edward Island hills; a crisp wind blowing up over the sand dunes from the sea; a long red road, winding through fields and woods, now looping itself about a corner of thick set spruces, now threading a plantation of young maples with great feathery sheets of ferns beneath them, now dipping down into a hollow where a brook flashed out of the woods and into them again, now basking in open sunshine between ribbons of golden-rod and smoke-blue asters; air athrill with the pipings of myriads of crickets, those glad little pensioners of the summer hills; a plump brown pony ambling along the road; two girls behind him, full to the lips with the simple, priceless joy of youth and life. )

(エミリーは)堤の突端に生えている見事なシオンの花が目にとまった。 ・・・・ そんなに濃い紫色のシオンを見たのは、はじめてだったので、取ろうとして足をふみだした。 ・・・・ (ディーン・プリ―ストの言葉)その大きなシオンの花が君を危険におびきよせたのなら・・・その花の大きいことと色の濃いことが、ぼくの目をひいたのだよ。           
       『可愛いエミリー』  第26章  アスター(Farewell-summer)夏よさらば。

("And you have it! Do you always get what you go after, even with death slipping a thin wedge between? I think you're born lucky. I see the signs. If that big aster lured you into danger it saved you as well, for it was through stepping over to investigate it that I saw you. Its size and colour caught my eye.


 野生のアスター 野菊)(ノコンギク) 庭で        


    えぞ菊 (園芸種)
 

アンの時代も、そして現在の日本でも混乱していること。
上記のアスターとえぞ菊。英文では「aster」でも、それぞれ違うアスターなのです。

まず左のアスターです。
晩夏から秋にかけて路辺に咲く野生のアスター。和名は野菊。
「くすんだ青色の菊」がリボンのように次々に咲いているという描写で見られるように、ごく普通の風景です。
島のアスターは白や薄いブルーの花が多いようですが、原文の「くすんだ青色の菊 (smoke-blue asters)に当てはまるのはNew York Aster
日本の乾燥した野原に咲くコンギクやノコンギクによく似ています。この野生のアスターは、さ50センチ前後。枝分かれした茎が多数伸びたその先に、ぱらっと開いたように多数の花を付けます。茎を触ってもざらつかない、とありますから、日本のよく似た花でも、コンギクよりもノコンギクに似ていましょうか。

『エミリーは登る』のなかのシオン(キク科シオン属)についてお話しましょう。
これらの訳文から、目を引くほどシオンの花が大きいこと、色が濃いことがわかります。

島に自生するのは、 「Heart-leaved Aster Aster cordifolius)」や、「Wood AsterAster acuminatus)」などですが、大きく伸びて草丈があり濃い青や紫色の花が咲く「Blue Wood Aster」の可能性が高いと考えます。
もっともエミリーシリーズで、重要な役目を果たすディーンとの出会いをより印象付けるために、作者が創作した植物だとも考えられますけれども。下で紹介するえぞ菊とは違い、このアスターは茎が堅く、エミリーが手で引きちぎることが出来た、とは思えないのですが。花言葉は「君の事を忘れない」。
ぴったりですね。 
シオン(紫苑)の別名はオニノシコグサ(鬼の醜草)。

さて、2番目のアスターです。

テーブルには紅白のえぞ菊(pink-and-white asters)を大きな鉢に活けて飾った。だが、この前、モーガン夫人のために用意した、すばらしいご馳走や装飾にくらべると、貧弱なことはお話にならなかった。
                               『アンの青春』 第20章  思いがけない客

There was a big bowlful of pink-and-white asters also, by way of decoration; yet the spread seemed very meager beside the elaborate one formerly prepared for Mrs. Morgan.
 

 二番目 の、村岡訳にある「えぞ菊・エゾギク・アスター」

原文には、「えぞ菊 "pink-and-white asters"」とありますが、学名はCallistephus chinensis
名前の通り中国原産で、エゾギク属の範疇に入ります。

この紅白のえぞ菊は、一年草。春に種を蒔き、家庭では花壇に植えて観賞用として楽しみ、ちょうど日本の旧盆のころには切り花として出回ります。
水持ちよく鮮やかで、モーガン夫人がせっかく訪問して下さったのに、なにも飾りのないグリーン・ゲイブルスの客間を彩り、アンの心をいくばくか 慰めてくれたことでしょう。

現在は、園芸種として多様な花色があり、アンの表現を借りると、「おっそろしく鮮やかで、天上の色かと思う薄むらさき色」のえぞ菊が栽培されています。

この園芸種の花の名前ですが、私の世代だと、えぞ菊とアスターの両方遣います。現在ではアスターと呼ぶのでしょうか。呼び方で育った年代が分かるかもしれません。あなたはどっち?
     えぞ菊 
「おっそろしく鮮やかで、天上の色かと思う」