万葉の植物   ゆづるは   を詠んだ歌
                           2010.9.3更新                    

 
    
    (ゆづるは  万葉表記  弓絃葉 由豆流波 )   ユズリハ (ユズリハ科)    

ユズリハ科の常緑樹。
花がトウダイグサ科の形態に似ていることから、古くはトウダイグサ科に含められていましたが、現在はユズリハ科に分類されています。雌雄異株。(写真左は雄花、右は雌花 。濃い紫色の実を結びます)
春、4月〜5月に前年の葉腋から総状の花を咲かせます。新芽は枝先に蕾状に付き、新葉が出てから古葉が、それも一斉に落ちるので、次の世代への命の継承を象徴する縁起の良い植物とされ、正月飾りに用いられます。
命を譲る --- 譲り葉なのでしょう。柏の葉の落葉方法に通じるところがありますね。
葉は長楕円形、長さ20cmほどで緩やかに波打ち、枝先に互生し、光沢のある皮質の葉で表面は深緑色、裏面は白緑色から灰白色と変異があります。
葉の主脈が太く弓に似ていることから、「弓絃葉」「譲葉」「と書かれることもあり、花ことばは「若返り」「世代交代」。
      
 河合酔茗の詩 「ゆずり葉」
                 (大阪府堺市生まれ、明治7年〜昭和40年  口語自由詩の提唱者)

    子供たちよ。
    これはゆずり葉の木です。
    このゆずり葉は
    新しい葉が出来ると
    入り変わってふるい葉が落ちてしまうのです。

    こんなに厚い葉
    こんなに大きい葉でも
    新しい葉が出来ると無造作に落ちる
    新しい葉にいのちをゆずってーー。

    子供たちよ。
    お前たちは何をほしがらないでも
    すべてのものがお前たちにゆずられるのです。
    太陽のめぐるかぎり
    ゆずられるものは絶えません。

    かがやける大都会も
    そっくりお前たちがゆずり受けるのです。
    読みきれないほどの書物も
    みんなお前たちの手に受け取るのです。
    幸福なる子供たちよ
    お前たちの手はまだ小さいけれどーー。

    世のお父さん、お母さんたちは
    何一つ持ってゆかない。
    みんなお前たちにゆずってゆくために
    いのちあるもの、よいもの、美しいものを、
    一生懸命に造っています。

    今、お前たちは気が付かないけれど
    ひとりでにいのちは延びる。
    鳥のようにうたい、花のように笑っている間に
    気が付いてきます。
    そしたら子供たちよ。
    もう一度ゆずり葉の木の下に立って
    ゆずり葉を見る時が来るでしょう

私は
何を次の世代に残すことか出来たのか。
一生懸命に造ったものとは何か。
   「ひとりでにいのちは延びる」 --- この言葉の重さ。

集中2首
 いにしへに恋ふる鳥かも弓絃葉の御井の上より鳴き渡り行く     弓削皇子  巻2-0111

  あど思へか阿自久麻山のゆづるはのふふまる時に風吹かずかも   作者不詳 巻14-3572