万葉の植物  うのはな   を詠んだ歌
                          2010.5.24 更新                    

 
    
   うのはな (万葉表記  宇能花 宇乃花 宇野波奈 宇能婆奈 于花) 
         
ウツギ、ウノハナ (ユキノシタ科                                      

ウノハナ(卯の花)はウツギ(空木)に咲く花。古代は農事の始まりを象徴した花でした。
空木はその名の通り、幹が中空で株立ちになる落葉低木で、卯月(旧暦四月)に咲くことから、卯の花と呼ばれています。藤の花のあとの、初夏の野のシンボルと言えますね。
万葉人は、新緑が濃い緑へと移り変わり始めた季節に咲き、野に映える白い花に、詩情を感じたのでしょう。
空木は霊力の憑りつく聖なる木とみなされ、あふれるような白い花は秋の稔りの予兆を示すとされ、花の咲き具合で収穫の豊凶を占ったと伝えられます。
中空の幹を利用した「うつぎ笛」を試してみたいものです。材は固いので木釘の材料。

  ・卯の花を挿頭に関の晴れ着かな         (曾良 白河の関で)

集中24首に卯の花が詠まれています。
同じ時期に現れるホトトギス(雷公鳥、田植鳥、不如帰、杜鵑、時鳥)に併せて詠まれている歌が多く、天空から聞こえてくる声と、地上に咲く卯の花の白い花とが、互いに引き立てあっていると言えるでしょう。
 

  卯の花のともにし鳴けば霍公鳥いやめづらしも名告り鳴くなへ          大伴家持 巻18-4091

  卯の花の咲き散る岡ゆ霍公鳥鳴きてさ渡る君は聞きつや            作者不詳 巻10-1976

 春されば卯の花ぐたし我が越えし妹が垣間は荒れにけるかも          作者不詳 巻10-1899

 卯の花を腐す長雨の始水に寄る木屑なす寄らむ子もがも            大伴家持 巻19-4217

 鴬の通ふ垣根の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ             作者不詳 巻10-1988

 霍公鳥鳴く峰の上の卯の花の憂きことあれや君が来まさぬ           小治田広耳 巻8-1501

 五月山卯の花月夜霍公鳥聞けども飽かずまた鳴かぬかも            作者不詳  巻10-1953(
卯の花が咲き、月が美しい夜。ほととぎすの声はいくら聞いても飽きないものだ。また鳴かないものか。)

 卯の花の散らまく惜しみ霍公鳥野に出で山に入り来鳴き響もす        作者不詳 巻10-1957

 時ならず玉をぞ貫ける卯の花の五月を待たば久しくあるべみ           作者不詳 巻10-1975
 (卯の花が枝に繋がって咲くのを「玉に貫く」と見立てた表現。)

 佐伯山卯の花持ちし愛しきが手をし取りてば花は散るとも            作者不詳 巻10-1259