万葉の植物  梅  を詠んだ歌
                           20113.5 更新

  
  

   
ウメ (万葉表記  鳥梅 梅 宇米 汙米 宇梅 有米 于梅  )ウメ (バラ科)

別名を、春告草 初花草 氷花 君子 雪中君子 風待草 風見草 香散見草 花魁 など多くの和名を持つめでたい植物。梅の花が開くのを待ち望む、弾んだ心そのままの文字を遣っています 。
中国原産。
古い時代に(650年から700年くらい)に日本に渡来した落葉小高木。春早く、他の花に先駆けて寒気の中に咲く姿は「凛」の言葉が一番似合いそう。花姿も香も雅やかで、舶来趣味も加わって格別なものとされました。
盆栽や庭木として鑑賞され、実は食用に、材は細工物に使われます。

万葉の時代には白梅のみで、紅梅が伝わるのはもう少し後。
萩に次いで多く詠まれています。集中122首。
大伴一族の歌と、大伴旅人邸での「梅花の宴」で詠まれた歌を数えあげれば、万葉集に詠まれた梅の歌の大部分が、大伴旅人と関係があるとされます。
なぜでしょうか。
梅は中国の漢詩文に古くから詠まれていて、その影響を受けた旅人をはじめとする奈良時代の文人に珍重されたからです。
 

梅にうぐいす
 春されば 木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に          小典山氏若麻呂    巻5-827
 梅の花 散り乱ひたる岡びには 鴬鳴くも春かたまけて         大隅目榎氏鉢麻呂   巻5-838
 我がやどの 梅の下枝に遊びつつ 鴬鳴くも散らまく惜しみ         薩摩目高氏海人   巻5-842
 梅の花 散らまく惜しみ我が園の 竹の林に鴬鳴くも            作者不詳        巻5-824

月の光と梅 --- 夜の闇に香る梅が恋しい人を思わせ、古を思い亡くなった人を偲ばせる。
 闇ならば うべも来まさじ梅の花 咲ける月夜に出でまさじとや        紀女郎        巻8-1452
 我が宿に 咲きたる梅を月夜よみ 宵々見せむ君をこそ待て         作者不詳          巻10-2349
 雪の上に 照れる月夜に梅の花 折りて送らむはしき子もがも         大伴家持      巻18-4134
 久方の 月夜を清み梅の花 心開けて我が思へる君               紀女郎          巻8-1661
  雪の上に 照れる月夜に梅の花 折りて送らむはしき子もがも       大伴家持          巻19-4134

白梅か紅梅か --- 万葉の時代には、紅梅が伝わっていない。
雪の白さと梅の花。花びらを雪と見る。
 馬並めて 多賀の山辺を白栲に にほはしたるは梅の花かも      作者不詳     巻10-1859
 雪の色を 奪ひて咲ける梅の花 今盛りなり見む人もがも       大伴旅人      巻2-850
 我が園に 梅の花散るひさかたの 天より雪の流れ来るかも            大伴旅人       巻5-822 
 山高み 降り来る雪を梅の花 散りかも来ると思いつるかも            作者不詳      巻10-1841
 我が背子に 見せむと思ひし梅の花 それとも見えず雪の降れれば    山部赤人      巻8-1426


香りを愛でる --- 香りを美しさにたとえる
 梅の花 香をかぐはしみ遠けども 心もしのに君をしぞ思ふ          市原王      巻20-4500

奈良の京に咲く梅は、格別な思いを寄せられる。
 梅柳 過ぐらく惜しみ佐保の内に 遊びしことを宮もとどろに        作者不肖    巻6-949
 霞立つ 春日の里の梅の花 山のあらしに散りこすなゆめ          大伴村上    巻8-143

若き日の家持の歌。
 君が行きもし久にあらば梅柳 誰れとともにか我がかづらかむ       大伴家持     巻19-4238
 鴬の 鳴き散らすらむ春の花 いつしか君と手折りかざさむ       大伴家持     巻17-3966  

野に遊ぶ
遊宴が行われる。梅の枝を髪に挿し、花を杯に浮かべて楽しんだ。
遊ぶとは、心を楽しませること。
神楽をあげる、琴を弾じる、笛を吹く、歌を歌う、野山へ行くなど、すべて日常からはなれ体や心を休め楽しませること。
 ももしきの大宮人は暇あれや梅をかざしてここに集へる         作者不詳  巻10-1880
 青柳 梅との花を折りかざし 飲みての後は散りぬともよし       笠沙弥   巻5-821
 年のはに 春の来らばかくしこそ 梅をかざして楽しく飲まめ       大令史野氏宿奈麻呂 巻5-833
 酒杯に 梅の花浮かべと思ふどち 飲みての後は 散りぬともよし   大伴坂上郎女    巻8-656
そして散る梅
  鴬の音 聞くなへに梅の花我家の 園に咲きて散る見ゆ           対馬目高氏老       巻5-841
 我が園に 梅の花散るひさかたの 天より雪の流れ来るかも          大伴旅人            巻5-822
 
いつしかもこの夜の明けむ鴬の木伝ひ散らす梅の花見む           作者不詳           巻10-1873
 梅の花 咲きて散りぬと人は言へど 我が標結ひし枝にあらめやも    大伴駿河麻呂  巻3-400

菅原道真の歌2首
 うつくしや 紅の色なる梅の花 阿呼が顔にも つけたくぞある    この時5歳 紅梅が伝わっていたようです。
 東風吹かば 匂ひをこせよ梅の花 あるじなしとて 春な忘れそ   (大宰府に 左遷される時、延喜元年・901年)