万葉の植物      うまら を詠んだ歌
                           2010.4.14 更新

 
    
    うまら (万葉表記  宇 萬良、棘原)      ノイバラ (バラ科)

うまらは「うばら」の東国方言。高さ2mくらいまで生長する落葉低木の野薔薇。 5月末、良い香りのする白い花房(円錐花序)を枝一杯に付け ます。草原の中に輝く白い花房に惹きつけられるように近づくと、あたりにはむせるような香りが。
実は秋に赤く熟し、果実酒にしたりリースの材料に使ったりします。
赤い実は営実と言い、利尿剤としても下剤として利用されたようです。
  (「
屎遠くまれ」はこの下剤としての働きを戯れ歌にしたものだとの説もあり ます。
                『万葉植物文化誌』木下武司著より)


現在はバラ栽培・品種改良の台木としても使われています。
常緑のテリハノイバラは、このノイバラよりもおよそ一月遅く咲き、一つひとつの花が大きくすばらしい香りがあります。
 
からたちの棘原刈り除け倉建てむ屎遠くまれ櫛造る刀自                      忌部首   巻16・3832

道の辺の茨のうれに延ほ豆のからまる君をはかれか行かむ           丈部鳥   巻20・4352

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丈部鳥は上総国天羽(現在の君津市あたり)から、徴集された防人。万葉集の巻20には、東国出身の防人の歌が80首あまり取られています。任期3年の防人として旅立つ際の、大切な家族と別れ生還の可能性も低い旅に出る思い---具体的で身近な表現でであればあるほど、その哀切の念に胸を打たれます。人間の本質はいつの世も変わりがないのでしょう。