万葉の植物  つるばみ   を詠んだ歌
                          2011.2.3  更新                    

 
    
     新芽と垂れ下がる花穂の、黄金色の美しさ                朝日に輝く裸木

   
つるばみ (万葉表記    橡  都留波美  都流波美 )      クヌギ (ブナ科)   
       
樹高15-20mに達する落葉樹。5月ごろ雌雄別に風媒花を咲かせます。左の写真は雄花の花穂。受粉した雌花は1年後の秋に成熟し、あの「どんぐりまなこ」に例えられる、まん丸の実を付けます。
生長が早く、発芽してから10年で利用できるほど。用途は薪炭材、椎茸のほだ木、建築材、器具材、船舶の内装など。持続的に利用できる里山の代表的な樹木のひとつ。
落葉は腐葉土堆肥として有用で、さまざまな発酵菌を含みます。古くから生活に利用してきた樹で、クヌギは国木から来たとも言われます。縄文時代の遺跡からどんぐりが発掘されることから、あく抜きをして食されたと見られています。

どんぐりは --- 団栗。正しくは殻斗(かくと)と呼び、狭義にはクヌギの果実を言いますが、ほかに スダジイ、ツブラジイ、、 マテバシイ、イチイガシ、ブナ、 コナラ、ミズナラ、クヌギ、アベマキ、カシワ、ナラガシワ、ウバメガシ、 シラカシ、アラカシ、アカガシなどの果実もどんぐりと称されます。
上の写真の花穂からめでたくどんぐりに出世した果実が、秋にはそれこそ降るように落ちてきて、春は春でこの花穂が屋根の樋を詰まらせ、夏には樹液を求めてカブトムシやクワガタ、スズメバチ、チョウが集まって庭は「お食事どころYama」にと変化する --- 自然のサイクルを見せてくれるクヌギです。
あ、どんぐりの背比べという表現もありましたね。落果する数は裏庭だけでも何万個も。なるほど、どのどんぐりもよ〜く似ています。

つるばみ染めとは:
樹皮やどんぐりの皮を使い、媒染剤として鉄を加え染まるのは、濃い紺色から黒。古代は家来や奉公人、一般人が用いました。

集中6首。いずれも地味、実直、めだたない、糟糠の妻を表現するのに使われています。
 

  橡の 衣は人皆事なしと 言ひし時より着欲しく思ほゆ            作者不詳 巻7-1311

 橡の 解き洗ひ衣のあやしくも ことに着欲しきこの夕かも          作者不詳 巻7-1314

 橡の 袷の衣裏にせば我れ強ひめやも君が来まさぬ             作者不詳 巻12-2965

 橡の 一重の衣うらもなくあるらむ子ゆゑ 恋ひわたるかも          作者不詳 巻12-2968

  橡の 衣解き洗ひ真土山本つ 人にはなほしかずけり            作者不詳 巻12-3009

  紅は うつろふものぞ橡のなれにし 来ぬになほしかめやも         大伴家持 巻18-4109

 749年(天平勝宝元年)、越中守大伴家持が、遊行女婦(うかれめ 歌舞音曲をよくし風流を解する遊女)に魅せられ、妻を顧みなくなった配下を「教え諭した」歌。色が褪せやすい紅と、つるばみ色に染めた普段着と。この対比の面白さがが現代にも通じますね。古代では、衣服の色は着る人の身分や職業までも表しました。
 家持33歳の時の歌、長歌1首と反歌3首を作って部下を戒めます。真面目な上司ぶりですね。
このあと、妻が突然乗り込んできて---という話が続きます。あとは野となれ山となれ。